第6話 大賢者の戦い方

 「死ぬ前に名乗る時間くらい与えてやるぜ?」

 「その言葉、そのまま返すよ」


 認識齟齬の魔法を用いて眼前の男の脳漿から自身の顔に関する情報を消しつつ、エリオットは言った。


 「ふん、減らず口を叩きやがって。冥土の土産に俺の名前は教えてやるよ」


 男は結局名乗りたいのか自ら名前を口にした。


 「俺の名はエギル。疾風怒濤のエギルってのが通り名さ」


 得意になって名乗った男の名をしかし、エリオットは知らなかった。

 何しろ名のある多くの人間が魔王軍勢力との戦いで散り、エリオット自身は半年近くも世間から隔離された場所で逼塞し続けていたのだ。


 「俺の名前にビビって何も言えないんじゃねぇか?」

 

 そう言ってゲラゲラ笑う男をエリオットは一瞥した。


 「悪いが最近のことには疎くてね。貴方はいったい何処の戦線にいたのですか?」

 

 エリオットの疑問に男は目の色を変えた。


 「お前もそうやって俺に従軍経験がないことを笑うのか!?生かしておいてやろうと思ったが気が変わった。テメェは必ずぶっ殺す!!」


 心配そうに状況を見守っていたラニアが、ちょんとエリオットの袖を摘んだ。


 「気にしなくて大丈夫、ちょっと逆鱗に触れちゃっただけだから」


 エリオットは眼前の男から目を逸らすことなく、ラニアを安心させるよう穏やかな口調で言った。


 「随分と舐めた口の利き方をしやがるなぁッ!!」


 男は剣を中段に構えると縮地を用いて、瞬きほどの間で剣の間合いにエリオットを捉えた。

 だがその剣が届くことはなかった―――――。


 「なっ!?」


 驚きの声と共に男は咄嗟に飛び下がるとエリオットを睨んだ。


 「お前、今何をした!!」

 

 そんなエギルに対してエリオットは即座に【拘束リワインド】を行使した。


 「手の内を明かすのはあまり好きじゃないのですが、それこそ冥土の土産に教えてましょう」


 先程までとは打って変わって逆転した立場。

 エリオットは敢えてエギルの言葉を借りた。

 

 「僕はさっき、時間の流れに干渉したんですよ」

 

 時間の流れを遅くしてしまえば、相手の攻撃を躱すことなど用意だった。


 「馬鹿な!?この魔剣は―――――」


 エギルの言葉をエリオットは遮る。


 「魔力耐性の能力を持つ魔剣、だろう?」

 

 エギルと対峙してからエリオットは、鑑定のスキルを用いてその魔剣がどういったものかをしっかりと分析していたのだ。


 「ならばなぜ!?」


 エギルは、心底わからないと言いたげにエリオットを見つめた。


 「その効果を発揮するのは、その魔剣に大して魔力の干渉があったときだ。でも僕は魔剣に対して、そしてそれに触れている貴方に対しては何も干渉していない」


 そう言うと自信を喪失したかのようにエギルは肩を落とした。


 「近接戦闘が苦手な『魔術師』と舐めてかかったのが間違いだったんだよ。さようなら」


 エリオットはそう言うと静かに剣を抜いた。

 魔法ではなく剣を用いて相手の命を奪う。

 それがエリオットなりの、剣の道を生きた者に対しての敬意の示し方だった。

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