第2話 少女との出会い

 「【上級治癒エクストラヒール】」


 少女を抱きかかえて結界の内側へと運び込むと、最上級の治癒魔法を展開させた。

 ガルダの爪に抉られて傷ついていた少女は、エリオットを見つけて安心したからか既に意識を手放していたがその傷はみるみるうちに癒えていった。


 「これで大丈夫かな……?」


 その様子に満足したエリオットは、結界の外のガルダに向き直った。


 「森へおかえり」


 弱肉強食とはいえ、『死の森』にも生態系があった。

 ガルダは猛禽類よろしくその頂点に君臨しており、ガルダを一匹狩るだけで生態系は崩壊を招きかねないのだ。


 「Gruuuu!!」


 人間の言葉を話すエリオットの声はガルダな通じるはずもなく、ガルダは攻撃色の目を爛々と輝かせるだけだった。


 「『森へおかえり』」


 エリオットは、翻訳魔法を用いて魔獣言語に自身の言葉を変換した。

 特定の言葉の響きと波長を組み合わせた魔獣言語は、人間であれば『魔獣調教師ビーストテイマー』の職業持ちの特権であったが、エリオットは自身の創り出した魔法により魔獣言語を使うことができたのだ。

 

 「ソレハ無理ダ。ソノ者ハ我ガ領域ニタチイッタ。ダカラ殺ス」


 ガルダは縄張り意識の強い魔獣として名高くそのプライドが高いことは『魔獣調教師ビーストテイマー』の界隈においては有名な話だった。


 「『僕は不必要な戦いは避けたい』」

 「随分ト上カラ目線ナ物言イダ」


 ガルダはまるで鼻で笑うかのように鋭く鳴いた。


 「『僕は争いを好まない。それでも君が望むのなら受けて立つよ』」

 

 エリオットの言葉にガルダは鋭い視線を向けた。

 エリオットは臆することなく、その視線を真正面から受けた。


 「今日ハ我ガ退コウ」


 ガルダは動揺を見せないエリオットを強者と判断したのか或いは興味を失ったのか、大きな翼を広げると瞬く間に消え去った。


 「さて、とりあえずこの子を安全なところへ連れていかないとね」


 エリオットは足下で意識を失ったまま身体を横たえる少女を見つめた。


 「まるで君を思い出すよ……ラウラ」


 遠い記憶を思い起こすようにそう呟くとエリオットは少女を抱きかかえて屋敷へと戻って行ったのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「……ここは……?」


 見覚えのない高い天井、そして『死の森』から溢れ出す濃厚な魔素により変色した白緑びゃくろくに少女は違和感を抱いた。


 「起きたか?」


 エリオットは家事の手を止めると、少女のいる寝台に駆け寄った。


 「貴方は……私を助けてくれたの?」

 「ガルダには説得して帰ってもらったよ」

 「そう……」


 少女はしばらくの間、何も言わずに外の景色を見つめた。

 普通ならありえない空の色、そして息が詰まるほどに濃厚な魔素。


 「なぁ、何で君はこんな危ないところにいたんだ?」


 踏み入った者は例え、上級冒険者と言えども帰ってくることはない。

 ゆえに『死の森』と呼ばれるエルドラ大樹海は、目の前にいる犬獣人の少女が生きて抜けられるほど甘いものじゃない、エリオットはそう思った。


 「私は……私は―――――」


 少女は意を決したような眼差しでエリオットを見つめると自身を突如として襲った不幸について語り出したのだった。

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