奴隷少女と始める美少女秘密結社ライフ〜気付いたら秘密結社のボスになっていたんだが?〜

ふぃるめる

第1話 全てを失った少年

 「大賢者エリオットよ、余の言わんとしていることが分からないでもあるまい?」


 魔族とその王を討伐したことで、世界は平和になっていた。

 そしてその立役者となった大賢者エリオットはしかし、その栄誉と名声を最大宗教たるアタプエルカ教によって奪われようとしていた。

 

 「どういうことなのですか……?」

 「お主ほどの人間が理解できないとは嘆かわしい……」


 教皇クリストフォロは、ため息をついた。 

 するとその傍に控えていた首席枢機卿のパトリシアが教皇のかわりに代弁した。


 「平和な時代にお前のような人間は不要ということだ」


 パトリシアが手を二度打つと、いくつもの袋が乗せられた台車が三人のいた礼拝堂へと入ってきた。


 「屋敷も既に用意した。報酬もこれほどまでに用意した。不満はあるまい?」

 「僕たちの功績を剥奪すると?」

 

 大賢者とその仲間で構成されたパーティは戦後解散を余儀なくされて今に至る。

 解散の意図は明白だった。


 「お前たちの功績だと?随分と不遜な口を叩くものだ。これは神の奇跡であり御力であるというのに」

 

 そこまで言われてようやくエリオットは認めたくない事実を認めたのだった……。

 いや、認める以外の選択肢はなかった。

 なぜなら手柄を奪われたことを不服とした仲間の一部が、『信仰心にかける異端』として処刑されていたからだった。


 「それは……そうですね」

 「分かったのならさっさと去れ。そしてもう人前に姿を表そうなどとは思うな」


 膨大な量の手切れ金の理由はそれだった。

 教会の求心力回復のためにエリオットたちのあげた手柄を奪ったことへの口止め料でもあった。


 「最後に一つ、お主に警告しておこう。くれぐれも復讐するようなことはしない方がいい。常に教会の目がお主に向いていることをその胸に刻んでおくがよい」

 

 教会には実力が未知数の暗部があった。

 されど教会の暗部は確かな実力を持ち、魔王軍の有力幹部を殺害していた過去があった。


 「その心配は無用ですよ……」


 壊れたような笑みを浮かべたエリオットは、そう言うと礼拝堂を後にしたのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 強力な魔物が跳梁跋扈することから、『死の森』と呼ばれるエルドラ大樹海の入口に、少年の屋敷はあった。

 その少年はたった数ヶ月前まで、大賢者と呼ばれていたエリオットその人だった。

 

 「二人ともおはよう」


 エリオットは作ったばかりの料理を二つの遺影の前に置いた。

 二つの遺影は、手柄を奪われることを不服とし教会に葬られたかつての仲間だった。

 光を失ったエリオットの瞳には、もう戻らない日々の光景が延々と映し出されていた。

 

 「もう生きてるのも億劫になったよ。二人を追いかけて行く日も近いかもしれないね」


 訪れる人などない『死の森』のほとりにただ一人で住むエリオットは、もはや生気を手放しかけていた。

 だが次の瞬間、少年の目に警戒の色が浮かんだ。


 「僕の結界に踏み込んで来るか!?」


 『死の森』の傍に築かれたエリオットの屋敷は、安全を確保するために幾重もの結界に護られていた。

 結界を構築したのはエリオット自身であり、結界に起きる異変は自身の身体に起きる異常同様に察知することが出来たのだ。

 少年はローブを纏うと、断罪剣カウカソスを握ると何者かに踏み込まれた結界へと転移したのだった。


 「お願い……助けて……」


 転移した少年の前に現れたのは深く傷付いた犬獣人の少女だった。

 首には奴隷の首輪があり、手も縄で縛られていた。

 そして倒れた少女の後ろにはその鉤爪から少女の血を滴らせた大きなガルダだった。


 「今助けるから待ってて」


 猛禽類らしいガルダの鋭い眼光を浴びながらエリオットは剣を抜いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る