第8話 王家謁見
綺羅びやかなシャンデリア。未だに重く、大きく膨らんだドレス。ぎちぎちと結い上げられ美しい水晶の細かな花を飾った髪は、その重さからか私の首へと圧し掛かる。
(なぜ、パーティーなんてものがあるのかしら。しかも、第7王子の誕生日祝いでとか。12人も子供がいるのに、一纏めにしてほしいわね本当)
心の中で毒を吐きながら、その第7王子の兄であり、若き国王陛下直々の招待状を思い出す。あれは、招待状ではなくて、「いつでも見ているからな」という脅迫なのだろうと思う。
出来れば、体調不良でさっさとお暇したいところだが、生憎そうはいかないのがこの世の常なのだ。
(ああ、何でこうも宮廷内の社交ルールは重苦しいのかしら。顔の肌も呼吸できないくらい重いのよね)
普段よりも何倍も厚塗りをした肌は、美白を通り越して、石膏の塗り壁のように感じる。
実は、私は化粧が苦手だ。理由は単純で、おしろいを塗った次の日は、すぐに肌が荒れてしまうから。
ただでさえ、美人姉妹に挟まれた私、肌荒れのせいでこれ以上見劣りすること自体は避けたかった。これ以上、突付かれる要素は増やしたくはない。
他人というものは、姉も妹も、今ここにも、学園にもいなくとも、勝手に批評されて、一瞬のうちに広まる。
だとしても、私はこの宮廷内のルールを守る事がどれくらい大事かということを、
さて、社交のルールとして、現在10才に成られた第7王子と王族には、高位貴族たちから順々に挨拶をしていく。
オルテンシア辺境伯は、基本的に大公、公爵、侯爵の次に挨拶をするため、今か今かと待たなければならない。
エスコート役の父親と共に、退屈を噛み殺し、この宮廷を早く後にするために、最短の挨拶を頭で考える。
そして、遂に列に並び、王族が座る上座へと少しずつ歩みを進めていく。赤いベルベットの絨毯を踏みしめるたび、嫌な記憶が蘇る。
王族の証である、神と同じく太陽のように輝く金色と、金色の瞳。
連なっていると眩しすぎて、目が焼けそうなので、すぐにでも目を背けてしまいたい。
遂に上座から一段下、
「両陛下、コリン第7王子に、更なる光り輝く未来と、絶え間なく続く生きる源を。オルテンシア家一同、慈愛の女神アイア様に誓います」
無駄が少しもない挨拶。
絶え間なく続く生きる源。
オルテンシアはリゾート地で今は有名ではあるが、それ以上に農作物やおいしい水、鉱物がよく採れる地域としても有名。
下手な公爵家よりも金だけならばある土地だ。
カーテシーと共に王族へと恭順を表す。そして、直ぐに下がろうと動くと、視界の端に、そう、王族の一番端にあの人がいた。
彼は相も変わらず、涼やかな顔をして、隣りに座っている
彼女は私が来たことも気づかず、隣りにいる男のことだけを見つめている。
前国王の弟であり、この国の唯一の大公である彼は御年45歳、そして、隣りにいる夫人は私と同い年。
この宮廷内で、「運命的な真実の愛」と二人は言われているため、あんな恥知らずな態度で居れるのだと思う。
お互い妾腹で血が遠いからと言って、叔父と姪の恋愛を美しく言い換えれる「宮廷貴族」様。その素晴らしい美的感覚に、私は本当流石ですと涙を流しながら褒め称えてあげよう。
「ああ、そういえば、オルテンシア嬢」
降りるための階段の方にずれようとした時、後ろから国王陛下の声が掛かる。
「はい、陛下、如何いたしましたか?」
「以前の恩もあるから、どうだ、コリンにはまだ婚約者がいないのだ。いかがだろう?」
ピシリッ
私達側の空気が凍った。
「はははは、陛下、娘はもう17で御座います。コリン王子も歳が近い同士のが良いと思われますよ」
「おや、それにしては……いや、まあなんでもない、ただ候補として、私達は考えているということを伝えようと思ってな」
それは、また、私を
「陛下の考えることは家臣の私達にはわかりませんが、近々娘もまた婚約する予定でございます。コリン様にも素敵なご縁がありますよう、陰ながら応援しております」
父はそう言って、なるべく不敬に取られない位の速さで御前から私とともにと去っていく。そして、流れるように社交界の片隅に隠れつつ、会場を後にした。
そこまでは、父も私も貼り付けた笑顔が保った。が、しかし。
「またもや、ウチの娘を壁にしようとするとは! ハイジアを何だと思っている!」
家に帰るための馬車の中で遂に限界が来てしまったのだろう、父の顔はみるみるうちに赤くなり、くわっと怒りを顕にした。
この馬車には私しかいない。少しばかり堪え性のない妹であったら、思わず泣き出してしまっていただろう怒声だった。
「お父様、落ち着いてください」
「……っ! すまない、つい、カッとなってしまった」
「仕方ありません。辺境に住む貴族の私達には考えが及ばないところまで見ているのが、王族なのでしょう。質の良い宮廷道化を常に探し、麗しい宮廷貴族を次々と楽しませるとは、本当に良い王族の見本ですわね」
「ジア……」
父は私の怒りに触れたせいか、先程の怒りより数段落ち着き、心配そうにこちらを見ていた。その視線がどういうものかは、私もよくわかっている。
「ごめんなさい、お父様」
「いや、謝るべきは、私だ」
頭を下げる父に、私はそれ以上なにも返さない。もう幾度となく繰り返されたことだから。
こうなってしまった原因、そう、嫌でもあの日々のことを思い出す。
私が13歳から始まった忌々しい受難の一年間。
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