第67話

 金曜日から、中間テストが始まった。

 りっくんが「たぶんこの問題出るぞ」って教えてくれた問題が出てて、やった!って思った。1日目の手応えはまあまあ。


 土曜日にうちに来たりっくんは、僕の部屋に入ってすぐ、僕に手を合わせた。

「ごめんっ、空。今度の水曜来れない」

「え…っ」

「必修の講義が教授の都合で変更になってさ、だからごめん」

 眉を歪めて申し訳なさそうに手を合わせるりっくんに、僕は胸の前で両手を横に振りながら「やめてやめて」って訴えた。


「そんな謝んないでよ、りっくん。だってしょうがないし、そんなの…。そりゃ…会えないの、すっごく残念だけど…」

 しょうがないしって、物分かりのよさそうな言葉を吐きながら、無意識に唇が歪んでいく。

 その歪んだ唇に、掠めるようなキスをされた。驚いてりっくんを見返したら、うん、てひとつ頷いた。

「俺もめちゃくちゃ残念。空のテストも終わるし、ゆっくりできると思ってたのに」

 なー、って覗き込まれてドキドキした。数日おきに会ってても慣れない、生命力の強い整った顔。

 すごく格好いい、僕の…彼氏…。


 昼食の時に母に「水曜日、りっくん来られないって」って話したら、「あら、そうなの?」って言って、キッチンのカレンダーに向かった。りっくんが来る日には母が『律くん』て書いてある。食事の準備を忘れないためだと思う。

 母が、次の水曜日に書いてある『律くん』の上に二重線を引いた。

 …会えない…


 隣に座ってるりっくんが僕の方を見てるのを感じながら、ミートソーススパゲッティをもそもそと食べた。父と母は食べ終わって先に席を立った。

 りっくんの2人前はありそうだったスパゲッティの山が崩れて、僕のも崩れて、「パスタは終わりの方、巻きにくいよね」なんて話しながら、淋しい気持ちをごまかした。


 金曜のテストで、りっくんの言ってたところが出てたから、改めて他の教科も予想してもらった。二人の間に教科書を広げて、椅子をぴったりくっつけて、キスできそうなほど身体を寄せ合って、実際時々キスをした。


 夕方にりっくんを見送るのが、いつも以上に辛かった。

 一週間も会えない。

 …でも。


「次の土曜までにはテスト結果出るだろうから、映画行こうな?」

 りっくんがそう言って抱きしめてくれた。

「…結果、いまいちだったら?」

「だいじょぶ、だいじょぶ。見た感じ、そんな悪い結果にはならなそうだし。名前書き忘れたりしなけりゃ」

 大丈夫だよって言って、また、ちゅってキスしてくれた。

「…がんばる…」

「ん、頑張れ」

 帰っていく均整のとれた背の高い後ろ姿を、僕は見えなくなるまでずっと見ていた。


 週明けからの3日間、結構頑張れたと思う。

 土曜日に改めて教えてもらったところを、日曜におさらいして、夜の電話で「頑張れよ」って言ってもらった。


「りっくんの『頑張れよ』はすごいんだよ?速く走れるようになるし、受験だって受かるんだから」

『なんだそれ』

 可笑しそうに笑いながら、でもりっくんはちゃんと『頑張れよ』って言ってくれた。

 そして毎朝『おはよう。今日も頑張れよ』ってメッセージを送ってくれた。

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