第59話

 ただ手を繋いでるだけなのに…なんかすごい…

 エッチな気分になっちゃう…


 りっくんの小指を親指できゅっと押さえたら、りっくんはふっと笑った。

 そのまま家までずっと手を繋いで帰った。

 途中でりっくんに「家に連絡した?」って言われて、慌てて母にメッセージを送った。僕は片手でスマホを使えないけど、どうしても手を離したくなかったから、スマホを膝に乗せてメッセージを打った。


「やりづらいだろ」

 って言ったりっくんが、繋いだ手を離そうとしたから、ぐっと握り込んで離せないようにした。唇を噛んでりっくんを見つめたら、りっくんは切れ長の綺麗な目を見張った。その目元が、ふわりと朱を帯びる。


 離さないもん


 揺れる車内で『軽い熱中症。もう平気。タクシーで帰る』ってメッセージを送った。

 あ、もう一言。

『りっくんと一緒』


 最後の一文を送ると同時に母から『大変!』ってメッセージがきた。でもそのすぐ後に、『なら大丈夫ね』って送られてきた。それから、

「りっくん、タクシーのレシート、絶対持ってきてってお母さんが」

「ん?いいのに別に」


 そういえばお金のこと何にも考えてなかった。

 甘えてるなぁ…

 家に着いたらすぐ母が玄関から出てきた。


「おかえり、空、大丈夫?律くんありがとね、お迎え」

「いえ、元々帰り道なんで」

 りっくんが首を横に振って応えると、母がじっとりっくんを見上げた。

「でも途中下車面倒でしょ?駅から学校までもそれなりの距離あるし。それをわざわざ迎えに行って、荷物も持ってタクシー呼んでって。ほんとにありがとう。タクシーのレシートちょうだい」

 はい、って出された母の手に、りっくんは不承不承という顔でレシートをのせた。


「今日はどうするの?空。休む?」

 玄関ドアを開けながら母が訊いた。

「あ、ううん。学校で休んだし、もう大丈夫だから勉強する。中間もうすぐだし」

 つい、後ろ手にりっくんのシャツを掴んだ。

 週に2回しか会えないのに、無しにするなんてありえない。


「ふーん。じゃ、無理しない程度にね。まあ律くんが見ててくれるなら大丈夫か」

 母が「どうぞ」ってりっくんにスリッパを勧めた。

 キッチンに向かう母の後ろ姿を見送って、りっくんを見上げた。

「…僕の部屋、2階、だから…」

 

 ドキドキ、してくる。

「ん」

 軽く頷いたりっくんの袖を摘んで階段を昇る。

 ドキドキしすぎて視界が揺れて、自分家の階段なのに踏み外しそうになった。

「どしたの?空。だいじょぶ?」

「う、うん。ちょっと…、緊張しちゃって…」


 自分の部屋に、好きな人を入れるのは初めて。


 ノブを引いて、りっくんを招き入れた。

 掃除はちゃんとしたつもり…っ


「キレイにしてるなー。なんか、空の部屋って感じ。かわいい」

 りっくんの言葉にホッとした。

 可愛い、かどうかは分かんないけど。


「あ、りっくん荷物ありがとう。ごめんね、ずっと持ってもらって」

「全然いいよ。どこ置くの?」

 ここ、って机の横を指差したら、音もしないくらい丁寧に置いてくれた。

 そしてりっくんは、自分のバッグはどさって置いた。

 長い腕が伸びてきて、容易く僕を掴まえる。ぎゅうっと抱きしめられて溺れそうになる。


「…空、良かった、たいしたことなくて…」

 耳元で、はぁー…って深いため息が聞こえて、りっくんの背中にしがみついた。

「すっげぇ心配したんだからな。マジで」

「…うん …。ありがとう、りっくん…」


「あと…、弟…って言って、ごめんな…」

 苦い声でりっくんが言った。

「ううん…、いい。…溺愛、されてるし…」

 りっくんの胸にすりすりと頬を寄せていたら、階段を昇る足音が聞こえてきた。

 

 まずい

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