第52話
「なんか急に暑くなったよねー」
「そうだね。もう夏っぽいもんね。まだゴールデンウィーク明けたばっかりなのに」
「年々夏が長くなるよな」
昼休み、開け放った窓からはわずかに風が入ってきていた。
まだ5月、ということで、多少暑くてもエアコンはつけてもらえない。
ゴールデンウィークが終わって学校が始まって、神谷と里田さんに旅行のお土産を渡したら、なんとなく神谷と前みたいに話せるようになった。
神谷は「ゴールデンウィーク中ずっと部活だった」って、日に焼けてきた顔で少し笑って言った。
「こんな日に午後に外体育とかサイアク」
里田さんがいちご牛乳を飲みながら不満気に言った。ダイエットはどうなったんだろう。あ、でも体育で消費するからいいのか。
里田さんのクラスとうちのクラスは、男女別に合同で体育の授業をしている。
「だよね。女子は何やるの?男子はサッカーだけど」
「テニス。下が土だから凸凹で魔球が打てちゃう」
「あはは」
日曜日はゆっくりお昼まで寝て、残りの休日を持て余して、月曜も火曜もメッセージだけでどうにか乗り切った。
りっくんからのメッセージはもちろん嬉しい。
ほんのひと言でもドキドキする。
でも、肌の触れ合いを知ってしまったら、どうしてもそれがほしくなる。
学校にいる間は気が紛れてるけど、家に帰って夜になるとりっくんを思い出してしまって、よく眠れなかった。
ーー明日はまた南門まで迎えに行くよ。
昨夜、りっくんからそうメッセージが届いた。
家庭教師って、普通先生が生徒の家に行くものだから、今日はりっくんがうちに来てくれる。昨日のうちに部屋の掃除をして、折り畳みチェアを運び込んでおいた。
あと、晩ご飯も食べていくことになってる。
りっくんが家庭教師はボランティアだって言ったから「せめてご飯くらい」って母が言ってそうなった。
昼休みの間にもぐんぐん気温が上がっていって、しかも心なしかじめっとしてきた気がする。せめて5月の爽やかさは残してほしい。
でも残念ながら僕のそんなお願いは、天には聞いてもらえなくて、外体育の6時限目、グラウンドはもわっとした熱気に包まれていた。
暑くてくらくらする。
「高山、大丈夫か?オレとか部活で暑い中走ってっけど、高山帰宅部だし。熱中症とか気を付けろよ」
「あ、うん。神谷ありがと」
僕を心配気に見下ろす神谷に手を振って、ビブスを取ってチームに入った。
今日は2クラスで4チーム、出席番号の偶数組と奇数組で分けてゲーム形式の授業を行う。神谷とは別々のチームだ。
…サッカー、苦手なんだよなぁ…。
まあ、体育全般苦手、とも言える。ただ走るだけならなんとか、という感じ。
同じチームに運動部が数人いるから彼らに頑張ってもらって、僕は適当に付いて走ってごまかそう。ここ数日ちょっと寝不足気味だし。
そんな風に思いながら最初の整列をして、「高山ディフェンスな」って言われて「分かったー」って返事をしてポジションについた。
やっぱ暑いなー。でも6時限目が終わればりっくんに会えるから…。
相手チームにはサッカー部員が2人いて、すぐ攻め込まれた。そのうちの1人が蹴ったボールがたまたま僕に当たって跳ね返って「ナイス!」って言われたけど、ほんとに当たっただけだし痛かったし複雑だった。
ゲームは残念ながらうちのチームの負けだった。
「すげぇ音したけど大丈夫か?赤くなってんじゃん」
って神谷が僕の足を見て言って、僕の着てたビブスを着て走って行った。
あーもう。痛いし、暑いし、なんか気持ち悪い。
みんなが集まってる所まで行って座ったら、ぐらりと地面が揺れた感じがした。身体が
「高山?!」
「おい、大丈夫か?!」
頭がわんわんしてきてみんなの声が遠い。目を開けてんのもしんどい。
「高山、おいっ」
…この声は、神谷…?
「保健室運ぶからっ、オレの代わり誰か入っといて!」
身体がふわっと浮き上がった。
「やっぱ熱中症になってんじゃねーか?高山。急に暑いから…っ」
神谷が運んでくれてる…のか…。
神谷のチーム、神谷が抜けちゃったら痛手だなー。神谷、サッカー上手いから。
そんなことと、暑いな、と、気持ち悪いなって思ってると、神谷がスピードを落とした。
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