第48話

「じゃ空、お願いね」

「うん」

 バタンとドアを閉めたら、滑らかに車は発車して行った。


「空!おかえり!」 

 一瞬たじろぐほどの、キラッキラのりっくんの笑顔。


 すっごい眩しい…っっ


「ただいま、りっくん…っ」

「家にいてって言ってたけど、まさか帰る途中で寄ってってくれるとは思わなかったよ」

 おいでって僕を階段に誘導しながら、りっくんが言う。

「あ、あの、お弁当買って来てって言われてて…」

「あー、なるほど。そういうことか。つかお土産多くない?」

 階段を昇って振り返ったりっくんが、僕の手元を見ながらドアを開ける。

「だってりっくんが何が好きか分かんないから…っ」


 開いたドアの中に、半ば引きずり込まれるように入って、力強い腕に抱きしめられた。ドアがバタンと音を立てて閉まる。

「…やっと帰ってきた…、空…」

 ぎゅうっと抱きしめられて、苦しくて幸せ。

「いつもと違う匂いがする。旅行、楽しかった?」

「うん…、でも、早く帰って来たかった…」

 空いてる片手を、りっくんの背中に回して抱きしめた。

「写真、色々送ってくれてありがとな。全部可愛かった…」

 ゆっくりと腕の力を緩めて、りっくんが僕の顔を見た。

「でもやっぱ、実物が1番だな」

 りっくんの大きな手が僕の前髪を梳いて、そして額にキスをしてくれた。

 うれしい…でも。


 おでこだけじゃ やだ


「…空、んな目で見んなよ。…我慢してんのに…」

 眉を歪めて笑うりっくんを見上げる。

 僕は今どんな顔をしてるんだろう。


「帰したくなくなるから玄関まで、って思ってたんだけどなあ」

 また、僕をぎゅうっと抱きしめたりっくんが、玄関の鍵をガチャっとかけた。

「でもやっぱ無理。上がって、空。夕飯の時間までには送ってくから」

 僕の手を握って、りっくんが僕を見つめる。

 うん、て頷いたら、おいでって手を引かれた。


「あ、りっくん。これね、プリンなんだ。だから…」

 お土産の入った紙袋をりっくんに差し出しながら言うと、りっくんは微笑みながら受け取ってくれた。

「もしかしてあれかな?テレビでよく見るやつ。うれしー、食ってみたかったんだ、あれ。ありがとな。つかそっか、冷蔵庫か」

 そう言ったりっくんは僕を連れたまま家の中を歩いていく。


「りっくんプリン好き?」

 あ、キッチンだ。

「好きだよ。甘いのも辛いのも、ほどほどぐらいのが好きだなー」

 りっくんは紙袋からプリンの入った保冷袋を出して、そのまま冷蔵庫に入れた。

「良かった。あのね、すごく美味しかったよ、プリン」

「そっか、空は現地で食べたのか。他のは常温OK?」

 紙袋を覗きながらりっくんが訊く。

「うん、大丈夫」

「よし。じゃごめん。お土産は後のお楽しみにさせて」

 そう言って、テーブルの上に紙袋を置いたまま、僕の手を引いてぐいぐい歩いて、やや乱暴に部屋のドアを開けた。


「空ん家って夕飯何時?」

「…お休みの日は6時半くらい」

 僕を部屋に入れてドアを閉めながら、りっくんはスマホを出した。

「じゃ、6時くらいには家に着いた方がいいよな。買い物して歩いて…、リミットは5時40分ってとこか」

「…アラームかけるの?」

「じゃねーと確実に時間過ぎるから。空といると時間忘れちまうし」

 りっくんが、アラームをかけたスマホをベッドにぽんと置いた。


「…あと30分強。バイトの30分は長いけどなあ」

「わ…っ」

 抱き上げられて、びっくりしてりっくんにしがみつく。

 そのままベッドに押し倒された。


「…空…」

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