第47話

「思ったより早く混んできたわね」

「そうだなあ。まあ明日も休みだから多少遅くなっても…」

 よくない!全然よくないよ、お父さん!!


ーー高速混んできただろ。渋滞情報、混雑のオレンジになってる。

ーーーうん。進まない〜。

 もっと早く出発してれば、とか、あの時ソフトクリーム食べてなかったら、とか、そんなことを考えてモヤモヤする。


ーーー早く帰りたいのに。

 りっくんに会いたいのに。待っててくれてるのに。

ーー空、俺はこの後用事もないし、待つっていっても家にいるだけだから、遅くなるとか気にしなくていいから。もちろん早く会いたいけど。

 唇を噛んでりっくんのメッセージを読んだ。

ーーーうん。りっくん。


 ふぅ、とため息をついて外を見て、車の多さにまたため息をついた。

「疲れたか?空。休みたい?」

 父がバックミラー越しに僕を見た。

「ううん、大丈夫。乗ってるだけだし」

 お父さんさえよければ、このままノンストップで帰ってほしい。

 1分でも1秒でも早く帰りたい。


 ようやく家の最寄りの料金所を出て、よく見慣れた街並みの辺りまで戻ってきた。

 ああ、やっと、あとちょっと…

「ところで今日の晩飯どうしようか。どこか寄ってくか?」

 えっ、お父さんやめてっ

「そうねぇ。どうしようかしら。ちょっと疲れちゃったのよねぇ。空は何が食べたい?」

「あ…えっと…」

 助手席からくるっと振り返った母が、「あ」っていうような顔をした。


「…そういえば空、律くんのお土産にプリン買ったってことは、すぐ持って行くのよね?」

 母は身体をぐにっと捻った姿勢で後部座席の僕をじっと見る。

「え、あ…うん」

「じゃあ律くんに今から行っていいか訊いてみて」

「え?」

 

 思わず母の顔を見返した。

「いいって言ったら律くん家の前で降ろしてあげるから、お土産渡して帰りに律くん家のコンビニでお弁当でも買って来て、ね?」

 いいでしょ?って母が父に訊いて、父はいいよって応えた。

「ほら、空、早く律くんに訊いて。あと20〜30分で着くわよ」

「あ…は、はい」

 僕は慌ててスマホを出して、メッセージアプリを開いた。


ーーーりっくん、あと20〜30分で行っていい?

 慌ててるから説明不足のメッセージになってるって、送ってしまってから気付いた。でも。

ーーいいよ。


「あ、りっくんいいって…っ」

「ほんと?じゃあ空、荷物の中から律くんのお土産まとめてね」

 そう言われてあたふたとお土産を探って、適当な紙袋にまとめた頃、りっくん家のコンビニが見えてきた。

ーーーりっくんもう着く。


「はい空、これでお弁当買って来て」

 前方から母が五千円札をにゅっと差し出して、僕はそれを受け取ってポケットに入れた。車のスピードが緩やかに落ちていく。


 あ!


 コンビニの2階の、りっくんの家のドアが開いてりっくんが出てきたのが見えた。


 りっくん!りっくん!


 車が路肩に停まると同時に僕はドアを開けた。

 スマホとお土産を掴んで外に出る。

 階段を降りてきたりっくんが、車の方に頭を下げた。

 父はうんうん、って感じで頷いて、母は嬉しそうに手を振ってた。

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