第46話

 りっくんのお土産にプリンを買うって、1日目の夜には決めてた。

 賞味期限が短いから、すぐに渡さないといけない。

 だから、帰ったらすぐりっくん家に行ける。


 りっくんが甘い物が好きかどうかは知らないけど、そんな理由でお土産を決めた。「甘い物はイマイチ」って聞いちゃったら買って行けなくなっちゃうから、あえて好みは訊かなかった。

 知らなくて良かったってこともあるんだな。


 お土産を買ったらすぐにでも帰りたいぐらいだったけど、頑張って楽しんでるふりをした。とりあえず写真を撮って、口角を上げて。

 昼食に、少し早めにレストランに入ったけど、もうあと数時間でりっくんに会えると思ったら、胸いっぱいで全然食べられる気がしなかった。


「僕、パフェにする」

「お昼ご飯パフェにするの?」

「だってほら、すごい美味しそうでしょ?フルーツいっぱいで」

 母は最初微妙な顔をしてたけど「ま、いっか」って笑ってた。


 両親は旅の終わりを噛み締めるようにゆっくりと昼食を摂っていて、僕ははやる気持ちを宥めながら長いスプーンでクリームを掬った。

 母がテーブルの向こう側から微笑みながら僕にスマホを向ける。

「パフェ食べてるところって、たいていどう撮っても可愛いわよね」

「パフェが可愛いからね」

「ね、空、そのサクランボ、指で摘んであーんってして」

 あー可愛い、って言いながら、母がシャッターを切った。

 その写真をテーブルの下でりっくんに送った。


 今日はまだりっくんから返事がない、っていうか既読も付かない。

 …まだ寝てるのかな。お休みだし。

 ずっとバイトだったもんね、ゴールデンウィークなのに。

 特に予定もなさそうに言ってたし。

『何しよっかなあ。空いないし』

 つまんなそうに言ってたの、嬉しかった。


 昼食が終わって車に乗った時、ポケットでスマホが震えた。

ーーおはよう。起きたら可愛い空が可愛いパフェ食ってる。いい目覚めー。

 やっぱ寝てたんだ、りっくん。

ーー返事遅くなってごめんな。昨夜寝られなかったからこんな時間になった。

 謝んなくていいのに。

ーーー全然いいよ。お休みだもん。

ーーどう?渋滞。車流れてる?

ーーー今のところ大丈夫。順調。

 車はそれなりのスピードで走ってる。今日は母の好きなCDをかけた。


「空、スマホばっかり見てたら車酔いするぞ」

「えっあ…、うん」

 バックミラーの中で父と目が合った。

 やばい。僕、にやにやしてたかも。

 車窓を眺めるふりをして顔を背けた。


 休憩で寄ったサービスエリアは、結構混んできていた。

 母がトイレから戻って来ないと思ったら、ソフトクリームを買って来てた。

「サービスエリアに来るとソフトクリーム食べたくなるのよね」

「ちょっとずつ味が違って美味しいんだよね」

「さっぱり系からこってり濃厚までな。お父さんはさっぱり系が好きだなあ」

 ソフトクリームを食べながらそんな話をして、「さあ、もうひと頑張り!」と父がハンドルを握った。

 段々車が増えてきて、高速だけど全然高速じゃなくなってきた。


 進まない 進まない

 もどかしい もどかしい


 早く帰りたいのに…っ

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る