第41話

「あれ?お母さん寝ちゃったのか」

「あ、うん。今…」

 お風呂から出てきた父がよいしょと座った。

「まあ空は風呂に入って来なさい。いいぞ、露天風呂は」

「はーい」

 

 お風呂のあるテラスに出て、とりあえずスマホをチェックした。

ーー海鮮丼うまそー。

 りっくんだ。返事くれてる。

 へへって思いながら、また写真を送った。…母が撮った僕の写真以外を。

 自分の写ってるのを送るのは、なんか恥ずかしい。

 

 あんまり遅いのも怪しいかもって思って、さっさとお風呂に入って、部屋に入る前にまたスマホを見た。

ーー楽しそうだなー。空の写真はないの?自撮りとかしない?

 僕の写真…は、ある、けど…。

 これは…、送った方がいい、んだよね?


 中からお父さんとお母さんの話し声が聞こえてきた。

 お母さん起きたんだ。なら、この後お風呂に入る。

 早くしなきゃ…っ。


 母が撮ってくれた写真は3枚。そのうちの1枚を「えいっ」って送った。

 だ、大丈夫かな。温泉まんじゅう食べてる写真で…。


 浴衣にはポケットがないから、スマホを脱いだ服とかの上に乗せて部屋に戻った。伏せてあるスマホがブルっと震えた。

「あー、空。浴衣かわいー。それも写真撮ろっか」

 母がにこにこしながら近付いてくる。母の目が僕のスマホに留まった。


 やばいっっ!


「あ、うん、ちょっと待って、荷物とか置くしっ」

 ぱたぱたと母の隣をすり抜けて、自分のバッグとかを置いてある所に向かった。そして母たちに背を向けてスマホをチェックする。


 わっっ!


ーーかわいいかわいい!めっちゃかわいい!温泉まんじゅう美味そう!!


 よ、よかった。りっくん喜んでくれてる。でもこれ見られたらごまかし効かない。

 またカメラを起動してから母の元に戻った。

 ポップアップにメッセージの内容が出ないようにする設定の仕方、りっくんに訊こう。

 でも、内容は出てなくても、りっくんから何件もメッセージがきてるの見られたら、十分怪しまれる気がしなくもないけど。


「男の子もねー、浴衣可愛いのよね。まあ、自分の子は何着てたって可愛いんだけど」

 母は上機嫌で僕の写真を撮って、「あれ?」って言った。

「空、お風呂から上がってすぐよりも、今の方がほっぺ赤くない?」

「えっ?!そ、そう?なんでだろっ。気のせいじゃないっ?」

 首からぶわっと熱が上がってきてる。


「温泉はあったかさが続くからなあ。お父さんもまだホカホカだぞー?」

 お父さんナイス!

「そっかぁ。温泉効果ね。お母さん、空にステキなメールでも届いたのかしらって思っちゃった」

「……っ!」

「あら空、目ぇまん丸ー。さ、お母さんもお風呂入ってこよーっと」

 そう言って母は軽い足取りで露天風呂に向かった。


 …こ…わ…

 お母さんこわいよっっ


 僕が母の後ろ姿を見送っている間に、父は布団に横になり、寝息を立て始めていた。

「お父さん、布団掛けないと風邪ひくよ」

 父の足の下になってる掛け布団を引っ張って、肩までしっかり被せた。

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