第42話
とりあえず洗面所で髪をざっと乾かして、さっき母が撮った写真を見た。
浴衣、とか、どうなのかな。温泉まんじゅうのは喜んでくれた、けど。
…やめとこ。
なんか、自意識過剰な感じがする。
ブブッてスマホが震えた。
ーー空、まだ起きてる?
りっくん…っ
ーーー起きてます。
ーーちょっと通話できる?声聞きたい。
えっ
洗面所から部屋を覗くと、父は軽いいびきをかいて寝ていた。母もまだ戻ってきていない。
ーーーちょっとだけなら。
そう送ったらすぐに着信が鳴った。一気に胸が高鳴る。
「っもしもし」
声、変だった気がするっ
『おー、空の声だー。旅行中にごめんな?写真見たら声聞きたくなって』
りっくんだっりっくんだっ
「ううんっ、僕もりっくんの声聞きたかった…っ」
嬉しい。…でも。
ほんとは声だけじゃ嫌だけど
『明日もう一泊泊まって、土曜日に帰ってくるんだっけ?』
「そう。土曜日の夕方に帰る予定。渋滞次第だけど」
早く帰りたい。
『あー、そっか、車か。渋滞長くないといいな』
「うん」
早く帰ってりっくんに会いたい。
『明日はどこ行くの?』
「美術館とか。りっくんはおうちの店?」
会いたい会いたい
『そうそう。明日は1日中店』
「あ、りっくん土曜日は?お休み?」
声を聞いたら、話をしたら、ますます会いたくなっちゃう。
『休みだよ。何しよっかなあ、空いないし』
残念そうに言ってくれるの、嬉しい。
「じゃ、夕方おうちにいて?」
ちょっとでも早く会いたい
『ん?いいよ?』
「お土産、持って行くから」
『いいのに、そんな…』
「ううんっ、持ってく!だから、いて?」
『…分かった。待ってる』
ずっと喋ってたい。ずっとりっくんの声聞いてたい。でも…。
「うん。あ、りっくん。そろそろお母さんがお風呂出ちゃうかも」
『そっかそっか、分かった。じゃ、もう切るけど、良かったらまた写真送って?空が写ってるのもあると嬉しい』
「え…っあ、うん…っ」
おやすみ、って言い合って通話を切って、洗面所から出てすぐに母が部屋に戻って来た。
あぶない あぶない
「あら、お父さん寝ちゃったのね。温泉気持ちよかったー。ほんとホカホカになるわね。空、まだほっぺピンクだし」
母がふふふーって笑いながら、僕の頬を指でツンとつついた。
ドキッとする。
「ほんと、温泉ってすごいよね。ただのお湯に見えるのに」
意識的にゆっくりと母から顔を背けた。
「そうねー。なんかスベスベになるしね。って空は元々スベスベだから分かんないか。あ、やだ、出しすぎた。空、こっち来て」
早く早くって言われて、膝立ちで母の元に向かうと、頬にクリームを塗られた。
「ほんと、すべすべー。かわいー」
「お母さん、まだ酔ってるでしょ」
「ちょっとね」
にこぉって笑った母が、「これも塗っちゃお」って次のクリームも僕にも塗った。
「空、ちゃんと歯磨きするのよ。あ、お父さんしないで寝ちゃったんじゃない?」
「たぶん。お母さんがお風呂行ってすぐ寝てたよ」
「やだぁ。虫歯怖くないのかしら」
ねーって母と笑い合って、歯を磨いて寝ることにした。
三人で川の字で寝るの、久しぶり。
寝言とか言っちゃったらどうしよう、なんて思いが頭をよぎって、でも僕はすぐに眠りに落ちた。
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