第22話

 6時限目が終わって、掃除のために階段に向かっている時、ポケットの中でスマホが震えた。


 りっくんかな?!


 すぐ見たい。でも見られない。

 スマホ自体は禁止されてないけど、さすがにこのタイミングでは出せない。

 早く掃除終わって!早くホームルームも終わって!


 はやくはやく!


 ようやく一日の終わりの「起立、礼」が終わって、立ったままポケットからスマホを出した。

 ポップアップにりっくんからのメッセージ!


ーー南門で待ってるから終わったら出てきて。

 南門!


 カバンを掴んで一目散に駆け出した。誰かに声をかけられた気がする。たぶん、一人目は神谷。それから里田さん。

 でも構っていられない。

 僕は早くりっくんに会いたい。


 つんのめりそうになりながら階段を降りて、大慌てで靴を履き替える。カバンが重いし、肩から落ちるのが邪魔くさい。

 南門は生徒用昇降口から一番近い門だ。パタパタと走って行くと門の向こうにりっくんが見えた。


「空!」


 うわっ

 すごい!りっくん笑顔キラキラ!


「なに、お前走って来たの?かわいー」

 下校のために開けられてる門を、ためらいなく入って来たりっくんは、両手を広げて僕を抱きしめた。


 えっえっ、学校っ学校っっ

 …でもうれしー…


「じゃ、行こっか、空」

 りっくんが僕の肩を抱いて歩き始める。

「う、うんっっ」

 背の高いりっくんを見上げて返事をしたら、りっくんは僕を見下ろしていて胸がきゅんとして息も忘れた。


「あれー?三島先輩じゃないっすかー」

 後ろから声をかけられてびくっとした。りっくんが僕の肩を抱いたまま声のした方に顔を向けた。

「あー、佐藤さとうじゃん。元気だった?」

「元気っすよ。つか先輩その子、1年生っすよね?」

 佐藤先輩が僕の方をチラッと見た。ドキッとする。

 何年生なんだろ。やっぱ3年生かな?

 りっくんは僕ごと佐藤先輩の方を向いた。


「そ、1年生。俺ん家の近所の子で小学校の頃からの友達の高山空。空、こいつは3年の佐藤準さとうじゅん

 りっくんが紹介してくれたから、僕は佐藤先輩に頭を下げた。

「高山です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくー、てか高山くん、声変わりしてる?まだ?」

 佐藤先輩も背が高い。りっくんよりは低いけど。

「え…あ…、一応…」

「佐藤、空を困らせるな。ビビってんだろー?」

 りっくんが僕の肩を抱いていた腕を引き寄せて抱きしめた。

 えっあのっ、いいの?!


「ずいぶん可愛がってんすね、先輩」

 佐藤先輩の声はちょっと驚いてる感じ。顔は見られない。

「だって可愛いからね、空は。小学生の頃からとにかく可愛いんだよ。だから空に何かあったらよろしくな、佐藤」

 りっくんは佐藤先輩にそう言うと「じゃーな」と踵を返した。僕は肩を抱かれたまま慌てて付いて行く。


「りっ、りっくんりっくん、いいの?」

「ん?」

「あ、あ、あんな風に言ったり、こんな、か、肩…っ」

 友達にしては距離感近すぎるって絶対思われてる。

 そう思ってりっくんを見上げたら、なんかいたずらっ子みたいな顔でクスッと笑った。

「平気だろ。俺たちはこういう友達同士なんですーって最初に言っておけば、そういうもんかと思ってくれるだろうし。それに俺、他人ひといる所で空に触らないとか、可愛いって言わないとか、たぶん無理だし」

「…っ」


 サラッとそんなこと言わないでほしい。

 顔に熱が集まってきちゃう。


「ほら、空そんな可愛い顔するじゃん。何も言わないとか無理じゃん」

 かわいーって言いながら、りっくんが肩に回した腕をまた引き寄せるから正直歩きにくいけど、離れたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る