第21話
昨日から、何をしていても頭の中はりっくんでいっぱいで、こんなに好きなのになんで気付いてなかったのか不思議で仕方ない。
すっごい会いたいけど、今日はりっくんはバイトがあるから会えない。
りっくんは、一高から家の方へ一駅隣の駅の駅前のコンビニで、高校の時からバイトをしてるんだって教えてくれた。りっくん家と同じコンビニ。
「うちの酒屋、コンビニにしようってほぼほぼ決まった頃、コンビニってどんな感じなのかなーと思って始めてみたんだ、バイト」
りっくんはそう言ってた。そしてそのまま続けてるんだそうだ。あと、自分家のコンビニも手伝ってるって言ってて、結構忙しそうだった。
見に行っちゃおーかな、りっくんのバイト先。
…迷惑、かな…。
分かんない。どれぐらい近付いていいのか。どれぐらい追いかけていいのか。
付き合う、なんて、初めてだから…。
昨夜も今朝も、ポツポツとりっくんがメッセージを送ってくれる。
「おやすみ」とか「おはよう」とか、そんな一言二言がびっくりするくらい嬉しくて、つい見入っちゃっていつもの電車に乗り遅れそうになった。
そんな感じで、僕は昨日からずっとふわふわしてる。
月並みだけど、りっくんのベストを着てると、りっくんと一緒にいるみたいな気分になった。
上の空で授業を受けて、気付いたら昼休みになっていた。
…ちょっと、だいぶやばい、僕。
「なんか今日の高山くん、にこにこしててすごい幸せそう」
里田さんが、パックのミルクティを飲みながら言ってきてドキッとした。
「ほっぺがほんのりピンクでかわいーし」
僕の頬を里田さんが人差し指でツンとつついた。
どんな反応をしたらいいか分からなくてうろたえていたら、ブレザーのポケットの中でスマホが震えた。
わっ、りっくんだ!
スマホを両手で包むようにして、なるべく外から見えないようにする。
ーー空、今日の放課後予定ある?休講になってバイトまでの時間空いたから会いたいんだけど。
えっえっえっ
心臓がドドドッて鳴って息を飲んだ。
「なに?どうしたんだ?高山。誰から?」
「え、あ、う、ううん。なんでもない…っ」
神谷に声をかけられて、慌てて首を振ってスマホを机の下に隠して返信した。
ーーーないです。あいたい。
すぐにまたスマホが震える。
ーーOK。じゃまた連絡するな。全部平仮名かわいいね。
ぶわっと体温が上がってきてしまって、僕は急いでスマホをポケットに入れて俯いた。お弁当の続きを食べても、もう味は分からない。
正面から神谷の視線を感じる。横からは里田さんもたぶん僕を見てる。
最後にミニトマトを口に放り込んで、お弁当箱を大急ぎで仕舞った。
「ちっ、ちょっとトイレ行ってくるっ」
変に思われてる。分かってるけどでも…っ
小走りで人の少ない方向に進んだ。屋根のない渡り廊下に出て、誰も来ない隅っこの手すりに背中を預けて、ポケットからスマホを出した。強くなってきた日光が画面に反射するから、角度を調整しながらさっきのメッセージをもう一度見た。
りっくんに会える。
会いたいって言ってくれた。
うれしい。うれしいうれしい!
10分でも5分でもいいから会いたい。
顔が自然ににやにやしてしまって、拳で口元を隠した。
まだ、昼休み。今日も6時限目までしっかりある。
りっくんからの次のメッセージはまだきてない。
どこで会えるの?何時に会えるの?
ドキドキ、ドキドキしながらスマホを眺めていたら昼休み終了を告げる予鈴が鳴った。
昼休み終わる!
休み時間が終わるのが嬉しいって思うなんて初めてだ。
スマホをポケットに戻して教室へ急いだ。
午後の授業も頭に入る気がしない。
やばい、すぐ中間テストあるのに。
教室に入ったら、神谷が僕の席の方へ振り返った。やっぱり何かむすっとしてる気がする。…でも神谷って元々目付きが鋭いからなぁ。
りっくんも目力が強い。
彫りが深くて、くっきりした二重の目は、美術室にある石膏像みたいに整ってる。その作り物めいた美しい顔が、笑うと一気に生命力に溢れてキラキラと輝く。
すごい綺麗で、すごい格好よかった。
今日も見られるかな、りっくんのあの笑顔。
そう思いながら、りっくんのベストをぎゅっと握った。
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