第19話
「あれ?高山くん、ベスト白も買ってたの?丈長くてかわいー」
朝の教室で里田さんが、ボタンを外していた僕のブレザーをちょっと捲って中のベストを見た。思わずドキッとする。
「あ、ううん。おさがり」
「えー、いいなー。誰の?」
同じくらいの身長の里田さんが、じっと僕を見つめてきてドキドキした。
「…りっくんの…」
僕は声がひっくり返るんじゃないかと思って内心ひやひやしながら、平静を装って里田さんに応えた。
「えっえっえっ高山くん、三島先輩と復縁したの?!」
「ふ、復縁って…っ」
昨日りっくん家から帰る前に、りっくんが「とりあえず友達復活したことにしとこっか」って言ってた。
「俺的には『空は俺の恋人だ』って言いふらしたいぐらいの気分だけど、まあそういうわけにもいかねーもんな。だからトモダチ」
ちょっと不本意そうに眉を歪めて笑ったりっくんが、腕の中の僕を見下ろしながら言った。僕はその提案に、うん、って頷いて応えた。
恋人って言われて、すごいすごいすごいドキドキして嬉しかった。
「ほら、りっくん家コンビニになったでしょ?昨日寄ってこうかなって思って行ったら、お店の前でりっくんが声かけてくれて、それで…」
…まあ、嘘じゃない。ほんとでもないけど。
「そっかー。そんなこともあるんだね。びっくりー」
里田さんにまっすぐな笑顔を向けられて、ちょっと居心地が悪かった。
「あ、神谷くん来た。おはよー」
里田さんの声で教室の出入口を見ると、神谷が入って来ていた。
「はよ。里田、またうちの教室に来てんの?」
朝練終わりの神谷が、呆れた顔で里田さんを見た。
「いいでしょ、隣なんだから。それより聞いてよ神谷くん。高山くんね、三島先輩とお友達復活したんだって」
「…へー…」
神谷はちらっと僕を見て、そしてスッと視線を外すと自分の席に向かった。里田さんは神谷を目で追って、それからまた僕の方を見た。僕の方を、っていうか、僕の着てるりっくんのベストを。
「そうそう、これこれ。覚えてる、三島先輩が着てたの。高山くんが着ると全然印象違うけど。三島先輩、背高いもんね。180センチ超えてるでしょ」
「うん、たぶん」
入学してすぐにあった身体測定で測った時、僕は160センチだった。
そういえばあの時、測ってくれた先生に「空くんって珍しい名前ね」って言われた。白衣だったし、たぶん保健室の先生だろうと思う。
「え、なに高山。そのベスト三島先輩のなの?」
カバンを自分の席に置いた神谷が、僕たちの方に来ながら言った。
…なんか神谷機嫌悪い?
「うん、そう。おさがり貰ったんだ。ちょっと大きいけど」
僕がそう言うと神谷は「ふーん」って唇を歪めて、やっぱり不機嫌そうに応えた。
「…高山、この前三島先輩とはもうほとんど接点ないって言ってなかったっけ?」
神谷の鋭い視線が僕に突き刺さる。思わずびくっとした。
「あ…うん。そうなんだけど、昨日久々に会って話して、それで…」
「…それで、何年も疎遠だったのにベストくれちゃったってこと?何の話したんだよ、あの人と」
「神谷?」
キンコーンって予鈴が鳴って、神谷は踵を返して自分の席に向かった。里田さんが心配気な表情で僕と神谷を交互に見て、そして小さく手を振って教室を出て行った。
僕は自分の席に座って、左斜め前方の神谷を見た。
なんで朝からあんな機嫌悪いの?神谷。
あーあって思いながらため息をついて俯くと、りっくんのオフホワイトのベストが目に入った。
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