第18話
「それに、めちゃくちゃ可愛くなった」
りっくんが強い目でじっと見つめてくるのが恥ずかしい。
りっくんだって、めちゃくちゃ格好よくなった。
「空、一高の制服よく似合うな」
僕の両肩に手をかけて、微笑みながらりっくんが言った。
「…りっくんも、すごい似合ってたよ?制服」
着崩した制服、格好よかった。
「あ、そうだ、空。ベストやる、俺の」
「え?」
ちょっと待ってな、って言ったりっくんが、ようやく僕を膝から下ろしてクローゼットを開けた。そして中からオフホワイトのスクールベストを出してきて、広げて見せてくれる。
Vネックのゆったりとしたシルエット。襟と裾に2本の紺色のラインが入ってる。
見たこと、ある。りっくんが着てるの。
「デカいだろうけど、それはそれで絶対可愛いと思うから、ちょっと着てみて」
うん、て頷いてブレザーと紺のベストを脱ぐと、りっくんがそれを受け取って、オフホワイトのベストを渡してくれた。
頭から被ると、やっぱりだいぶ大きくて、お尻がすっかり隠れるくらいの丈だった。
「ははっ、かーわい。いいね、やばいね。自分の服彼女に着せんのとか意味分かんねーって思ってたけど、よく分かった。可愛い」
よしよしって僕の頭を撫でて、満足そうにりっくんが言った。
りっくんが嬉しそうだと僕も嬉しい。
好き…だから…
りっくんのことが、すごく好きだから、りっくんが喜んでくれると幸せな気持ちになるんだ。
いつから好きだったんだろう、りっくんのこと。
「空?」
覗き込んでくるりっくんの整った顔が、不意にぐにゃりと歪んだ。
「どした?空」
りっくんが名前を呼んでくれるのが嬉しかった。
手を振ってくれるのが、声をかけてくれるのが嬉しくて、いつもりっくんを探してた。
「なんでまた泣いてんの、お前…」
卒業してしまうのが淋しくて堪らなかった。
目を逸らされて胸が痛くなった。
りっくんの隣を女の子が歩いているのをモヤモヤしながら見送った。
全部全部、りっくんのことが好きだったから
長い指で涙を拭ってくれるりっくんに手を伸ばしてパーカーを掴んだ。
「空?」
「…すき…」
「うん」
「…っくん、すき…」
「うん」
りっくんが、僕をその長い腕でゆっくりと抱きしめてくれる。
いつからかなんて、もう分からない。友情が、いつ恋情に変わったのか、それとも最初っからりっくんに恋をしていたのか。
自分の気持ちなのに自分でも全然分からない。
分かっているのは…。
「…っくん、りっくん、あのね…っ」
抱きしめられたまま、背の高いりっくんを見上げた。
照れくさそうな嬉しそうな顔をしたりっくんが、目元を赤く染めて僕を見下ろしている。
「うん、なに?空」
カテゴリー分けできない僕の気持ち。
「だいすき…っ」
声が掠れた。
唇が震えて、舌足らずな涙声になった。
言い終わるか終わらないかでりっくんは僕を力一杯抱きしめた。
「…っわー…、やばいやばいやばい。かわいいかわいいかわいい。ちょっ俺アタマおかしくなりそーなんだけど…っ」
笑っているような、焦っているような声でりっくんは言って、僕の頭を何度も撫でた。
「こんな可愛い「大好き」初めて聞いた」
耳元で囁くりっくんの低くて甘い声に、くらりと眩暈がした。
りっくんにぎゅっとしがみつく。
抱きしめられてる僕も、抱きしめてるりっくんもドキドキしてる。
「…空に声かけてよかった…」
吐息のようなりっくんの声が、すぅっと染み込んでくるようで、心地よくて僕は目を閉じた。
目尻を涙が伝い落ちていく。
「好きだよ、空…」
そう呟いたりっくんが、僕の目元に口付けた。りっくんの唇の触れた所から、柔らかい熱が身体に広がっていくように感じた。
心臓が壊れそうで苦しくて、でもずっとこうしていたい。
りっくんの大きな手が、僕の頭を、背中を撫でていく。
しあわせ
広い背中に回した手で、りっくんのパーカーをぎゅっと握りしめた。
「…かわいー…」
ははって笑ったりっくんが、僕にすりすりと頭を擦り寄せてきて、茶色い髪が頬をくすぐるから僕も笑った。
そして僕たちは、くすくす笑い合いながら、ずっと抱きしめ合っていた。
長くなった日が傾いて、部屋が薄闇に包まれてしまうまで…。
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