第17話

「マジで?空も俺が初恋なの?」

 ぱぁって光が射すような笑顔を向けられて目を見張った。

 僕はうん、てまた頷いて、ずずっと鼻を啜った。またじわって涙が滲んでくる。

「さ、さっき、やっと…わかっ…」

 上擦った声で、つっかえつっかえ喋る僕を、りっくんが、うん、うんて頷きながら聞いてくれて、そしてまたぎゅうっと抱きしめてくれた。

「そっかそっか。うん、そんな感じはね、してた」


 くすっと笑ったりっくんが、大きな手で僕の頭を、背中を、ゆっくりと撫でていく。

 ぞくぞく、する。

 好きな人に触られるって、こんなに気持ちいいんだ…。

 おずおずと、りっくんの首に腕を回した。りっくんが、ふふって笑った。


 すっごい幸せ


 りっくんがしてくれたように、りっくんの茶色い髪をそっと撫でてみた。

「…う、わぁ…。なんだろ、すっげ幸せだー…。やばい。このまま離したくない」

 そう言ってりっくんが膝の上の僕を見上げた。

 僕の腕の中で目を細めて笑ったりっくんは、そのまま永久保存したいくらい格好いい。


 もう一度りっくんの髪を指で梳いた時、どこかでピロンてスマホの着信音がした。

「あ、そうだ空、連絡先交換しよう。持ってるよな?スマホ」

「うん」

 僕はブレザーのポケットからスマホを出した。りっくんもジーンズのポケットから出して画面を見てる。その間もずっと、りっくんの左腕は僕の身体に回っていて、僕を膝から下ろすつもりはないみたいだった。


「りっくん、僕重くない?」

「ん?平気平気。じゃ、まずこっちから…」

 片手で支えたスマホの上を、りっくんの親指がするすると器用に動く。その、りっくんの手元を見ながら、僕は両手でスマホを操作している。まだこの薄い機械に慣れない。りっくんに一つずつ手順を訊きながら、メッセージアプリの連絡先を交換した。


「うんうん、それでOK。俺がやれば速いけど、それじゃ覚えらんねーから」

 な、ってりっくんが笑う。

 学校で神谷と里田さんと連絡先を交換した時は、神谷が全部やってくれた。だから僕は操作を全然覚えてないわけで…。


「…その、先に入ってた2人…は、高校の友達?」

 りっくんが、ちらっと僕を見上げてためらいがちに訊いてくる。

「あ、うん。神谷と里田さんは中学からの友達」

 僕のスマホにはまだ両親とその2人しか登録されていない。

 りっくんは5人目だ。


「…ふーん…。里田さん、は一緒に帰ってた子、だよな?神谷くん、は卒業式の時に肩組んで写真撮ってたやつ?」

「うん、そう。…りっくん?」

 なぜかりっくんが、また僕をぎゅうっと抱きしめた。

「…なんでもない。つーか、すげぇ下らないこと」

「なに?」

 なんでもないって言いながら、りっくんは少し拗ねたみたいな顔で僕を抱きしめてる。


「…先越されたなーって、思っただけ」

「え?」

「ごめん、忘れて」

 僕の胸に顔を埋めて、くぐもった声でりっくんが言った。


 甘くて、蕩けるように心地いい、とても危険な感覚に脳が痺れる。


「…だってりっくん、それは…」

 こんなの知らない…

「うん、分かってるよ。んなこと言ってもしょうがないって。でもさ…」

 熱っぽい目で僕を見つめながら、りっくんが僕の頬を撫でた。

「1番が良かったなー、なんてさ」


 ぎゅんって心臓が飛び跳ねて、思わず唇を噛んだ。

 心臓、口から出てきちゃう


「そうだ空。電話番号とメアドも交換する?使わないかもだけど」

「あ、うん。する」

 勢い込んで応えたら、りっくんがまた僕をちらっと見上げた。

「…その2人とも、番号とメアド交換、した?」

 僕を覗き込む真剣な眼差しに気圧された。

「し…てない…」


「よっしゃ!」

 りっくんがぎゅうっと僕を抱きしめた。

 すっごい嬉しそうな顔してる。

「あ、でもお母さんとお父さんのは入ってる、けど…」

「親はノーカウント。じゃ、俺の送るな?」


 さっきまでと打って変わって、またキラキラした笑顔を浮かべたりっくんは、右手でスマホを操作しながら、左腕は相変わらず僕を抱きしめてる。

 …なんか、りっくんがかわいい

 つい顔がにやけてくる。


「お、空が笑った。かわいーな、やっぱ」

 嬉しそうにりっくんがそう言った時、僕のスマホにメッセージが届いた。

 りっくんからの初メッセージ!

 スマホの電話番号とメールアドレス。その登録の仕方も一つずつ丁寧に教えてくれる。


 誕生日も教えてくれた。7月28日。

「りっくんの誕生日、夏休み中だったんだね」

「そ、夏休み。空は?誕生日いつ?」

「2月21日」

「やっぱ早生まれか。ちっさかったもんなー、小学生の頃。可愛かったー、あの頃も」

 おっきくなったなあって言われて、照れくさかった。


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