第16話
「…っくん、ぼく…、ぼくね…」
「うん?」
遠くからしか見られなかったりっくんが、今、目の前にいる。
「りっくんが、女の子と歩いてるの、やだったっ!」
声のボリュームが調整できない。りっくんが驚いた顔をしてる。
「やだったっ、やだったっ、やだったよぉっっ!」
でも止まらない。言葉も、涙も。
駄々っ子みたいに泣きながら頭を振った。
「うんうん、分かった。分かったよ、空。ごめん、俺が悪かった」
慌てた顔でそう言ったりっくんが、長い腕で僕をぎゅうっと抱きしめた。
ここに来たかった。
この腕の中に来て、こうして抱きしめてほしかった。
他の人を見ないで、僕の方を向いて、昔みたいに僕に笑いかけて。
好きだったんだ、りっくんのこと。たぶん、ずっと。
自分でも分かってなかったけど。
でも、好きだったから、りっくんを目で追って、そしてりっくんから走って逃げた。
僕は抱きしめてくれてるりっくんに腕を回してしがみついた。
りっくんが「うわっ」って言って、それから「ははっ」って笑った。
「わ、わらわないでっ」
みっともなく歪んだ声で訴えて、ベッドに片膝を付いているりっくんに、ぎゅうぎゅう抱きついた。
「ごめんごめん、空。だってお前が可愛すぎて…」
笑わないでって言ってるのに、りっくんはくすくす笑い続けてる。
でも僕をしっかり抱きしめてくれてるから、いいことにする。
「…っくん、りっくん、ぼく…」
「うん?」
くっついたら、りっくんもドキドキしてるのが分かった。
ぼくと、おんなじ
「…な、なる。…なりたい…。りっくんの…恋人…に…」
鼻を啜りながら、掠れた声でなんとか言った。
「マジで…?」って言ったりっくんの声も掠れててドキドキした。
僕を抱きしめてるりっくんの腕の力が更に強くなって苦しい。
苦しいけど、嬉しい。
僕もりっくんの身体に回した腕に力を込めた。
「ははっ、やばい。ちょっとこれは…、大学受かった時よりうれしーかも」
りっくんが少し掠れた声で僕に頬擦りしながら言う。
「俺、告白したの初めてなんだよ、空。こんな緊張すんだな。血管爆発しそうなんだけど」
みんなすげぇな、ってりっくんが笑った。
「好きだよ、空。ずっとずっと好きだった。好きで好きで、避けるしかできなかった。手に入るなんて…っ」
腕を緩めて、りっくんが僕の頭を撫でる。
こんなに笑顔のりっくん、久しぶりに見た。
小学生の時みたい…。
中学生、高校生のりっくんは、母の言うところの『アンニュイな雰囲気』で、いつも気怠そうな表情をしてた。笑ってても、全開の笑顔じゃなかった。
かったるそうなりっくんも格好いいけど、笑顔はもっといい。
さっきは「笑わないで」って言ったくせに、僕は今そんなことを考えてる。
「も、ぜってぇ逃さねぇから」
また、りっくんは両腕で僕をぎゅうって抱きしめた。
「…逃げたり、しないよ…?」
なんかくすぐったい。
僕もりっくんの背中に回した手で、力いっぱいしがみつく。
「…好きな子抱きしめるのって、こんな幸せなんだな…」
しみじみって感じで呟いたりっくんの言葉でまた視界が潤んだ。
「しかも初恋だし…」
「え…?」
思わずりっくんを見上げた。
「意外だった?俺、遅いんだよ初恋。小学校の頃とかバレンタインに告白されたりしてもよく分かんなかったし…」
りっくんが僕を抱いたまま「よいしょ」と方向転換してベッドに腰掛けた。僕は、あれよあれよという間に、りっくんを跨いで向かい合わせに膝に乗せられてしまった。
は、はずかし…っ
更に心臓がドキドキ、ドキドキ鳴って、どっと汗が吹き出した。
「初恋は実らないって言うけど、あれ嘘だな」
りっくんは膝に乗せた僕を嬉しそうに抱きしめた。僕はりっくんの肩の上に腕を回して抱きついて「うん」って応えた。
「空もそう思うの?」
りっくんの低い声が耳元で聞こえてぞくっとした。僕はもう一度「うん」って小さく応えた。
「…だ…って…、ぼくも…」
喉がきゅうってなって上手く喋れない。
「うん?」
りっくんが少し腕を緩めて僕を見上げた。
「ぼく…も、そう、だから…」
浅い呼吸を繰り返して、しゃくり上げそうになりながら言った。
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