第15話
「だってお前さ、ほんと可愛いまんま成長してんじゃん。ズルいよ、そんなん。忘れるとか無理だろ。むしろ前より可愛いだろ、今」
なんか拗ねたみたいな表情でりっくんが言う。
「…えっ…と…」
「悪い、ごめん。空が可愛いのは空のせいじゃないし、空を可愛いと思うのは俺の勝手だし、つか今はむしろ可愛いの大歓迎だし」
苦笑いを浮かべたりっくんが僕の頭をスッと撫でた。
大きくて優しい手が髪を梳いていく。
「そやってさ、ごまかしごまかし過ごしてきたわけ、俺は。空が中学生になって、女の子と歩いてんのも「うわー」って思いながら見てた」
「あ…っ、あの、里田さんは部活が一緒で…」
つい、言い訳みたいな言葉が口をついた。
「うん、分かってる。友達か恋人同士かは見てれば何となく分かるよ。この前の卒業式でもあの子と写真撮ってたよな、空」
心臓をぎゅっと掴まれるような感覚がした。
うん、と僕は頷いて応えた。
「空が一高受けるって言ってたからさ、受かったかどうかは卒業式の時に顔見りゃ分かるだろって思って覗きに行ったんだ。そしたらお前笑ってたから、合格したんだなーってホッとして、それからちょっとムカついて帰った」
「え?」
「まあそこは置いといて。…これが、俺が空を避けてた理由だよ」
照れくさそうに少し頬を染めたりっくんが、僕の目を覗き込んでくる。
「言わないつもりだった。言ったってしょうがないって思ってたし、言われたって空が困るだけだろ?誰も得しない。でも」
僕の内側まで見透かしそうな目。
息が、止まる。
「でもお前、変わったから。俺から逃げたあの日から」
な?って微笑まれて唇を噛んだ。
とくとく とくとく とくとく
心臓が強く鳴り続けて苦しい。
「あの時、走り出す直前に彼女を睨んだお前の目を見た時、もしかしてって思った。そうだったらいいのにって。それでまた、空のこと見るようになった」
僕をじっと見ていたりっくんが、一度視線を落として大きく深呼吸をした。
そしてスッと立ち上がった。
驚いて見上げたら、りっくんは僕の目の前に膝をついた。
どきどき どきどき どきどき
りっくんの二重の強い目が、僕をまっすぐに見つめた。
真一文字に結ばれた唇が、ためらいがちに動く。
「…あの…さ、たぶんもう分かってると思うんだけど…」
声が硬い。
りっくんのこんなに緊張した顔を見るの、初めてだ…。
どきどき どきどき どきどき
握りしめた拳に、じわりと汗が滲む。
「俺、空のことが好きなんだ。友達とか、弟みたいに、とかじゃなくて…」
組み立て切れていなかったパズルの一番大切なピースが、ぱちりと
「…だから空、俺と、付き合ってほしい。…恋人、として…」
りっくんの声が、少し掠れた。
どくどく、どくどく、どくどくと、すごい勢いで血液が流れている。
あたま破裂しそう…っ
ほんのりと赤い顔をしたりっくんが、唇を噛んで僕を窺うように見つめている。
「…やじゃない、よな?空」
強い瞳。
確認というより、確信のような言葉。
「…こっ、恋人って…」
訊きたいことも言いたいこともいっぱいあるのに、いっぱいありすぎて上手く出てこない。
「ん?」
少し首を傾げたりっくんの目が優しくなって、喉の手前で渋滞してる言葉をどうにか押し出した。
「そばにいていいってこと…?」
りっくんのそばに…。
「うん。つーか、そばにいてほしいってこと。空に」
膝の上で握りしめている僕の手を、りっくんの大きな手が包んだ。
あったかい…
「…も、僕から、目、逸らさない…?」
言葉と一緒に、涙が溢れてしまう。
「逸らさないよ」
りっくんの長い指が、僕の頬を伝う滴を拭った。
「手、振ってくれる…?」
吐き出す息が熱くなってる。身体が熱を持ってる。
「いいよ、もちろん」
くすって笑ったりっくんが、なんか呟いたけど、自分の心臓の音が耳の中でわんわんしてて聞こえなかった。
僕の頬を拭って、そして頭を撫でてくれるりっくんの大きな手。
ここ最近ずっと胸の中にいた正体不明の何かが、ゆっくりと顔を見せる。
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