第11話
「ねーねー、高山くん。部活どうする?園芸部入る?」
新入学のオリエンテーションの一つ、部活紹介が終わった昼休み。隣のクラスの里田さんがやってきて、僕の隣の席の椅子を借りながら訊いてきた。
「うーん、どうしようかなぁ。特に園芸部がいいってわけじゃないけど…。それに中学みたいに絶対ってわけでもないから…」
「部活やんねぇのはそれはそれで勿体なくない?」
僕の前の席の椅子を引いて、後ろ向きに座りながら神谷が言う。神谷とは同じクラスになった。
「神谷くんは陸上部?」
いちご牛乳をちゅーっと飲みながら里田さんが神谷に訊く。
「ああ、うん。走んの好きなんだよね、やっぱ」
「速いしね、神谷。続けないのはそれこそ勿体ないよね」
デカい弁当箱を開けた神谷にそう言うと、神谷は僕の方に目を向けた。
「高山もまた園芸部入ればいいじゃん。グラウンドの花壇綺麗だったし。花好きなんだろ?」
「まぁ嫌いじゃないけど。里田さんは?どうするの?部活」
神谷の視線が強くて、里田さんに話しかけながら僕はその目から逃げようとした。神谷はキリッとしたイケメンだから、時々視線が鋭すぎてちょっと怖い。
「あたしも考え中。中学の園芸部は消去法で入ってたからねー」
「はは、それは僕もそんな感じだったよ」
高校時代のりっくんの話を聞きたいなら、どこか部活に入って先輩と繋がりを持った方がいい。でもそれが園芸部じゃなくても別にいい。
「2週間が一応の区切りだから、見学とか行ってみようかなぁ」
そう言ってメロンパンに齧り付いた里田さんに、僕はうん、うんと頷いた。
少しでもりっくんのことが知りたい。
「高山くんはさ、もしかして三島先輩の話聞きたくて部活入るの?」
「え…」
里田さんの問いかけに、ドキンと胸が鳴った。思わずその顔を凝視する。
「だってほら、中学の時すごい嬉しそうに聞いてたじゃん。三島先輩の思い出話。だから高校でも聞きたいのかなーって」
そう言った里田さんが、にこにこしながら僕を見てくるから、じりじりと頬が熱くなってくる。
「へー、そんなことあったのか。知らなかった」
箸を仕舞った神谷が、僕を流し見ながら言った。やっぱり目力強い。
「神谷くんが高山くんと仲良くなった頃にはもう、一通り聞き終わって落ち着いてたからね。あたし達が1年の時は花壇で作業しながらよく聞いてたんだよ。グラウンド見ながらさ。ねー、高山くん」
軽く首を傾げて僕を見ながら里田さんが言った。神谷は少し唇を歪めて「ふーん」って言ってた。僕は曖昧に頷いて、綺麗な黄色の玉子焼きを齧った。
「でもほんと、高校は部活の種類が多いから決めるの大変よねー」
里田さんがいちご牛乳をずずっと飲み切って、パックを畳み始めた。
「そうだね。やっぱ中学とは違うよね」
りっくんの話に戻らないように、どうにかこの話をお終いにしたい。
今りっくんの話はダメだ。
なんかすごい動揺しちゃう。
まだ少し頬が熱い気がする。
僕だけまだお弁当を食べ終えていないから、食べることに集中することにした。
「てゆーかさ、高山が三島先輩と仲良かったのって小学生の頃なんだろ?で、今はもうほぼ交流ないんだよな?ならよくね?三島先輩のことは」
神谷が眉間に少し皺を寄せて不機嫌そうな声で言った。
「…えっ…と…」
そう言われると…。
何て応えたらいいか分からない。だって僕自身、何でか分かってない。正体不明の何かが、僕の胸の中に棲みついてる。
「神谷くーん」
女の子たちの声がしてハッとした。僕を睨むように見ていた神谷が声の方に顔を向けた。思わずため息が漏れる。
「あのっ神谷くんっ、連絡先…っ」
3人の女の子たちがスマホを手に近付いてくる。
「断るにしてもちゃんと話してあげなよ」
里田さんがこそっと神谷に言った。神谷は一つため息をついて立ち上がった。
「相変わらずモテるよねー、神谷くん。あたし、ただの友達なのにすごい睨まれるんだよねー」
里田さんが女の子たちと立ち話をしている神谷の方をチラッと見て言った。
神谷はちょっと面倒くさそうな顔をして女の子たちに向き合ってる。
助かった…。
神谷には悪いけど、女の子たちが来てくれて良かった。
あのまま、あの話をしていたくなかった。
りっくんの話には、誰も踏み込んでほしくない。
僕とりっくんの思い出に、誰も入って来ないで。
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