第9話
「高山」
神谷に声をかけられて、はっとして目を上げた。
「この後は?外で親が待ってたりすんの?」
「あ、ううん。式終わったら先帰るって言ってた」
「ね、ね、じゃあ写真撮ろうよ。あたしスマホ持って来てるから」
里田さんが制服のポケットからこそっとスマホを覗かせた。
「オレも持ってる。高山は?」
「僕はまだ。春休みに買いに行くことになってる」
スマホは、高校合格祝いで買ってもらう約束になってた。
「そっかそっか。じゃ、あたしと神谷くんで撮っといて後で高山くんにあげるね。みんな高校一緒だし」
里田さんがそう言って笑い、神谷が頷いた。
4月になったら僕たちは同じ高校に入学する。
…りっくんの卒業した一高に。
昇降口を出ると、まだたくさんの卒業生が残ってて写真を撮ったり喋ったりしていた。僕たちもその輪に加わって、別れてしまう友人たちと思い出話なんかをした。
「高山くん、ほら、こっち来て。写真写真」
里田さんが手招きする。
「でもさ、よく考えたら撮らなくてもよくない?また会うのに」
「いやさ、これは中学卒業の記念だから、な?」
そう言った神谷が僕の肩に腕を回した。そしてグイッと引き寄せられる。
「神谷、近いしっ」
「いいじゃん、いいじゃん。ほら撮るぞー」
片手で構えた神谷のスマホの向こうに、
あ!
りっくん…っ!
慌てて視線を外したけど一瞬目が合った。いつもは先に目を逸らすりっくんが、僕の方をじっと見ていた。
「高山、スマホ見て」
神谷が肩に回してる手で僕の腕をトントンと叩いた。
「あ…うん…」
パシャッというシャッター音。
「誰か通った?」
神谷は僕の肩に回した腕を外さないまま、さっき撮った写真を見てる。
僕が神谷の腕を持ち上げようとすると、またグイッと抱き寄せられた。
「さっきのイマイチ。もう一回撮り直し」
そう言いながら、また同じようにカメラを構えた。もう一度撮り直すのは面倒だから、今度はちゃんと笑顔を作った。笑顔を作りながら、僕はさっき見たりっくんの顔を思い出してる。さっきから、とくとくと鼓動が跳ねてきている。
「あ、高山くん。あたしとも撮ろー、2ショット」
今度は里田さんが僕の腕に腕を絡めた。そして神谷と同じように顔を近付けてパシャッとシャッターを切った。
「やだぁ。やっぱ高山くんの方が可愛い」
撮った写真を見て笑いながら里田さんが言う。
『空っていうんだ。かわいーだろ?』
昔りっくんに言われた言葉が蘇った。
「大丈夫、里田が可愛くないわけじゃないぞ。高山が可愛すぎるだけ」
ひょい、と覗き込んだ神谷がそんなことを言った。
「神谷くん、それ慰めてるの?」
里田さんがじろりと神谷を睨んだ。
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