俺はまだフラれてないったら!! 〜記憶喪失の子と恋人になったら記憶が戻った途端、俺のこと全部忘れられてたけど、彼女が記憶喪失の時に側に居てと言ったので頑張ろうと思う〜
第13話/ステイサムにはちょっと勝てそうにない
第13話/ステイサムにはちょっと勝てそうにない
有無をいわさず決まったお家映画デート、冷静に考えてみれば砂緒に攻めの手を打ってきたという事。
慎也としては、二人で過ごせて喜ばしい反面。
緊急時に逃げ場がなく、指輪の露見が高まるリスクでしかない。
――我が物顔で冷蔵庫を漁る砂緒に、慎也は問いかけた。
「ちょっと聞いていい? なんで俺の部屋で映画を見るの? 別に映画館でも九院さんの部屋でもよくない??」
「あ、ラッキー、いろはす貰うねー」
「どうぞどうぞ、カノジョが置いてったものだし飲んで構わないよ」
「…………そー言われると、抵抗感あるよ?」
慎也からしてみれば、元々砂緒の為に置いてある物であるが。
彼女からしてみれば万が一、慎也が恋人でなかった場合を考えると思わず躊躇ってしまう。
とはいえ、夏の自分に繋がる手掛かりかもしれないと難しい顔で手に取り。
「それで、灰海くんの家で映画見る理由だっけ?」
「日記にでも書いてあった? でも、俺の部屋に九院さんの恋人の手掛かりとかないよねって」
「考えてみたの、外でデートして探すだけが方法じゃないと思って」
「部屋の中で再現してみて、記憶を取り戻そうって?」
理屈は通る、建前としては十分だ。
夏休み終盤は同棲状態だったから、慎也は特に意識していなかったが。
確かにこの部屋で砂緒と映画を見た記憶もある、だが彼女の荷物を見れば違う目的であるのは明白で。
「ん? どーしたの? 制服脱がないの? ああ、私が居るからって気にしないで。――ほら、じゃじゃーんっ! お泊まりセットも持ってきたからっ」
「なんで泊まる気なの!? ひとつ見たら帰ればいいじゃん!? そりゃ晩ご飯ぐらいはいいけどさぁ……」
「だって全部見なきゃダメだよね?」
「え?」
「だから全部、――はいっ、ワイスピシリーズセット!!」
「恋愛物じゃないの!?」
道理で大荷物な訳だ、もしかしたら徹夜して見る気かもしれない。
ならば、余計にリスクが高まる訳で。
(というか砂緒!? 恋愛物が好みって言ってなかったっけ!? ワイスピ好きだって俺聞いてないよッ!?)
(……変なの、灰海くんがもしそうならワイスピに付き合ってくれた筈だよね? うーん? もしかして一回見たら二回目は見ないタイプ?)
(くッ、どうする。ワイスピは見たことないから丁度いい……じゃなくてッ、そ、そうだっ、恋愛以外にも好きなのあったよね!!)
(ふふふ、証拠を掴んで一緒にワイスピ沼に落とすっ、――私って頭いいっ!)
さぁ脱げ、着替えろと、砂緒はニヤニヤした目で催促した。
私服に着替えなければ始まらない、幸いにして指輪はワイシャツの下のTシャツの下だ。
冷静な表情を必死に作りながら、視線など気にしてないと言わんばかりに遅くもなく早くもないスピードで制服を脱ぎだして。
(へーえ、私なんて気にしないって? …………ふ、ふーん?? あれが男の子のパンツ……、こうして見ると……い、いや何も思ってないからっ)
(焦るな……、ううっ、足とか尻に注目されてる気がするッ、…………いや待ってなんで? もしかして指輪をトランクスの中に隠してると思われて??)
(おへそ見えたっ!! え、けっこー鍛えて……じゃないっ、見るのそこじゃなくて……ああ、着替え終わっちゃった)
上は一枚脱ぐだけなので、着替えらしい事は下半身しかしていないのに。
どうして、ストリップをしている気になるのか。
制服をハンガーにかけながら、慎也は気を取り直して提案する。
「ワイスピって結構長いシリーズだよね? 今度にしない? っていうか二人で見るならホラーとか恋愛物じゃないの? 日記に書いてなかった??」
「あははっ、冗談きついって灰海くん。日記にはカレピと映画見て楽しかったってだけだったけど、絶対に私ならワイスピ選んでたもんっ、ホラーとか恋愛とかないない。映画はアクションだって絶対っ」
「なるほどぉ??」
慎也は今、激しく動揺していた。
カルチャーショック、或いはギャップと言い換えていいかもしれない。
あの時の砂緒が選ぶのは、恋愛かホラーばっかりでアクションなんて見向きもしなかったのに。
(ど、どういうコトッ!? 記憶のあるなしでこんなに違うもんなの!?)
(……この反応、まさか私が恋愛やホラーを見たって? ありえない、やっぱり別人? だいたいソッチ系って、ムード作ったり甘えたりする口実…………んんっ??)
(どうにか折衷案を……いや、でもこれは今の砂緒を知る絶好の機会……リスクを受け入れるべきかッ)
(そ、そんなにイチャイチャしたかったの私っ!? 灰海くんに甘えて、~~~~ち、違う、きっとそれだけじゃない、日記には記憶が戻る不安もあった、なら灰海くんを繋ぎ止めるためにスキンシップ多めに――)
もしかして映画は悪手だったのかも、と砂緒は戦慄した。
ワイスピは何度も繰り返し見たお気に入りの映画だ、しかし二人で見るという事はそういう雰囲気になるかもしれなくて。
流されてしまったらどうしよう、と、もし強引に迫られたら拒絶できるのか。
「――――やっぱりホラーにする? ううん、ゲームっ、ゲームしよう! 日記にもあったもん!!」
「いや、九院さんの言う通りにワイスピを見よう。……全部見る覚悟を決めたよ」
「いやいや、やっぱちょっと長いよね。またの機会にしない?」
「まあまあ、そう言わずにさ。俺にもワイスピの面白さを教えてよ。――さ、テレビのリモコンを返して?」
咄嗟にリモコンを掴み背中に隠す砂緒であったが、にじり寄る慎也の姿を前に逃げ場がない事に気づいて。
このままでは一緒に映画を見ることになる、それだけは避けたい。
じりじりと後ろに下がる彼女であったが、すぐに背中が壁についてしまった。
「もう、逃げられないよ」
「だ、だめ……(なんで壁ドンっぽくなってるのおおおおおおおおおおっ!?)」
「意地悪しないでさ、リモコン返してよ」
「ううっ、もう……、あっち行ってっ!!」
瞬間、砂緒は慎也に蹴りを入れようとして。
それを予測していた彼は体を捩り回避するも、バランスを崩してしまい。
咄嗟に掴んだのは彼女の華奢な肩、となると。
「うわッ!? おっとととぉッ!?」
「きゃっ!?」
「――っ、あー……ちゃぶ台にぶつかんなくてよかっ…………」
「~~~~~~~~~っ」
近い、顔が非常に近い。
お互いの吐息が感じられるぐらい、後少しで唇同士が重なってしまうぐらい。
しかも、傍目から見れば砂緒が押し倒しているような体勢。
(うおおおおおおおおおッ、今胸元を探られたらヤバイッ!? 指輪がバレるぅ!!)
(き、キスしてないよねっ、まだ未遂だよねっ、……あ、睫毛が以外と長い……じゃなくて、ううっ、早く体を起こさないとホントにキスしちゃうっ)
(早く退いて……、い、いや俺が押し返せばいいだけだよねっ。えっと、肩を掴めば――)
(えええええええええええええええっ!? 肩掴んだっ!? キスされちゃう!? わた、私っ、き、キスを……っ!?)
リップは大丈夫だとか、昼食の後に歯磨きしたっけ、などと砂緒は混乱の局地に陥り。
そっと瞼を閉じ、その時に備えて身を堅くした刹那であった。
――ガチャ、と扉が開く音がして。
「よっ、居るだろ慎也お邪魔するぜ……って、何それ!? 僕の慎也が寝取られてるうううううううううううううううううう!?」
「~~~~~ッ!? ち、違うからっ、事故っ、そうっ、これ事故だからっ!! 誤解しないでっ!!」
「…………やぁ、今日は来るなら連絡欲しかったよ一蓮、帰ってどうぞ??」
「帰るものか!! 僕の目が黒い内は慎也に悪い女を近寄らせないッ、さぁ二人とも!! 僕の作るディナーまで健全に過ごして貰うぜ!! というか今すぐ離れろ!!」
果たして助かったのか、そうじゃないのか。
慎也も砂緒も今一つ分からなかったが、ともあれ。
二人は、一蓮の作る夕食を食べることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます