第12話/君じゃなきゃ駄目みたい??
そして商店街である、砂緒の残した日記には買い食いデートと記されていたらしいが細かな課程は書かれておらず。
故に、何を食べようかと相談がてら入り口にあるスタバに入ったのだが。
慎也としては、新たな発見があって。
(…………買い食いデートだったんだアレ)
当時の彼としては、指輪を拾ったお礼に軽食を奢って貰うついでに商店街をブラついていたという認識で。
デートってこういうのかなぁ、とデートだったらいいなぁ、とは思っていたが。
彼女がデートという認識をしていたのは初耳だし、それが嬉しくて。
「ねぇ砂緒、俺にも日記を見せてよ」
「だーめ、なんで慎也くんに見せるの?」
「興味本位100%だね、最初のデートが商店街食べ歩きって、どういう経緯でそうなったのか気になってさ」
「ふーん?」
コーヒーを啜る慎也を、砂緒はジトっとした視線を送る。
怪しい、とても白々しい言葉に思える。
もし彼が本当に恋人なら、もう少し何かあるのではないか。
「そんな目で見ないでよ……、俺もね、初めてのデートかなぁってなんとなく思ってたのより、前の出来事をカノジョが初デート認識しててさ」
「私もそうって?」
「こういうケースって、あるあるなのかなぁ、って思うじゃん?」
「やけに嬉しそうだけど、認識のズレがそんなにいいの?」
不可解そうに首を傾げながら、ストローでフラペーノを飲む彼女の姿はとても可愛らしくて。
無意識に微笑みながら、慎也はうーんと唸った。
なんて言えばいいのだろう、認識のズレが嬉しかった訳ではなく。
「――俺と一緒に居た時間をね、カノジョが俺以上に大切に思ってくれてたのが嬉しかったんだ」
「わーお、ノロケられちゃった?」
「日記の砂緒は、記憶喪失だった時の砂緒はどうだったのかな? ……少し、気になってね」
探られている、そう砂緒は直感した。
慎也のカノジョを自分だとすると、彼の言葉通りに。
(私って、そんなに慎也くんの事――)
証拠はまだ見つかってないのに、つい思ってしまう。
(愛されてるって、……嬉しいって思っちゃうの)
きっと慎也との出逢いは運命で、王子様だと前の己は思っていたのだと。
同じ自分のことだ、理解してしまう。
運命を感じた衝動のまま、突っ走ってしまったのだろう。
「うーん、分かんないや。だから――慎也くんがドキドキさせてくれたら分かるかも?」
「ははっ、悪いお姫様だなぁ……勘違いしそうになるよ」
「それって、記憶が戻ってるとか?」
「いやいや、砂緒が俺を好きで、フツーに付き合ってる恋人同士だって思いそうになるってだけさ」
「でも、今はそーするんだよ? 私と慎也くんは運命で結ばれたあまーい恋人同士、ねっ?」
砂緒はそっと肩を寄せて寄りかかる、その重みが、体温が、慎也には泣きそうになるほど嬉しくて。
(しっかりしろッ、――明らかに錯覚を狙って来てる、……疑われてるね俺、全てを俺の口から言わせるつもりかもしれない)
(そうやって思い出を語って、私に夏の記憶を取り戻させようって? 魂胆なんて丸見えなんだから)
(でも――これはチャンスだよ、今の砂緒を惚れさせるんだ、そうすれば俺は君の側に居られる)
(お生憎様、記憶が戻ったら貴方なんて捨ててやるんだから…………、うん、そう、記憶が戻ったら、慎也くんなんて――)
仲睦まじい恋人のように絡まる視線、その中にそれぞれの思惑がぶつかって火花を散らす。
砂緒はうっとりとした表情で、慎也の胸板に頬を寄せ。
――その寸前、彼女の頬は彼の手の平に阻まれる。
「ちょっと慎也くん?」
「ごめん、ネックレスしてるから痛いかなって」
「気にしないのに……それよりネックレスしてるなら服の外に出したら? そっちの方がお洒落じゃん?」
「いやはや、これはカノジョからの大切なプレゼントだからね。常に身につけておきたいけど、見せびらかしたい訳じゃないから」
「ふぅ~~ん?」
「砂緒だってあるだろ? そんな感じのやつ」
「――そうだね、でも私は見せちゃうっ! だってコレの片割れも探して貰わなきゃいけないんだから」
そう言うと砂緒は服の下からネックレスを出す、するとそこには慎也の想像通りに指輪があって。
迂闊なことは言えない、気づかれてしまうと。
少しでも反応を見逃さない、それが恋人である証拠に繋がるのだと。
「へぇ、ネックレスにしてる割にはシンプルな指輪だね」
「お値段なんとお給料三ヶ月分の半分っ!」
「…………結婚指輪?」
「小さな頃に死んじゃったパパとママの形見なの」
「一つだけしかないけど、もしかして……」
「うん、きっと……もう片方は私の恋人だった人が持ってる、――取り返したいの」
眉をへにゃっと下げて笑う砂緒の表情は、悲しそうで寂しそうで。
慎也は、ここにある、と、俺が恋人だよ、と抱きしめたくなった。
でも出来ない、だからそっと彼女の手を優しく握って。
「絶対に見つかる、俺が保証するよ」
「もし見つからなかったら?」
「あり得ない」
「言い切るんだぁ~~、なら見つからなかった時はどーしちゃおっかなぁ?」
慎也は再度確信した、砂緒は己を疑っていると。
砂緒は再度確信した、慎也は夏の恋人であると。
「――じゃあそろそろデートを始めようっ、日記によるとね、いっぱい『あーん』しあったんだって」
「砂緒みたいな可愛い子に『あーん』して貰えるなんて光栄だな」
(日記には『あーんして貰った』って書いてあったけど、……どうするの慎也くん? こんな嘘を信じちゃう? 私の誘惑に勝てるのかな?)
(……………………実はこれ、ただの役得では??)
この日、商店街には夏休み以来見かけなかったバカップルの姿が確認された。
以前より初々しくぎこちない姿に、一部の店主は若いっていいねぇ、と後方保護者面感を出していたのはともあれ。
(うううううううううううう、なんか思ってたより恥ずかしいいいいいいいいいいっ!! なんでっ、なんでぇ!)
(なんで恥ずかしがるんだよ砂緒っ、俺まで恥ずかしくなっちゃうよ!!)
一つのコロッケを仲良く半分こして食べさせあったのを皮切りに、謎の我慢大会が発生。
一時間もすれば、二人の胃袋が悲鳴をあげると共に精神も疲弊し。
「はぁ、はぁ、はぁ。――やるね慎也くん」
「砂緒こそ、中々やるね」
恋人と誘い出すやら、日記の内容を再現して手掛かりを探すやら、建前なんてとっくに行方不明。
噴水の前にあるベンチにて。横抱きのお姫様だっこでバカップルスタイルの二人はようやく気づく。
千日手に陥っていると、このままでは雰囲気に流されてしまうかも、と。
(よく考えたらこの体勢ヤバイよねぇッ!? 俺の指輪バレちゃうじゃん!! 早く、早く何か砂緒に怪しまれずこのデートごと終わらせる何かを――)
(わっかんない……っ、記憶喪失の間の私はどーしてこんな恥ずかしいコトを……ううううううう、慎也くんは慣れてますって顔してるしムカツクっ!!)
(そ、そうだっ、この体勢なら砂緒にデコチューして、ぼちぼち解散って言えばイケるんじゃない??)
(――――き、決めたっ、思い切ってやっちゃうもん!!)
慎也が行動を起こそうとする、その寸前であった。
ぐいと砂緒の顔が近づいたかと思えば、頬に柔らかな感触。
一秒、二秒、三秒、想定外すぎる事態に硬直する中、彼女の顔はやっと離れて。
「え、えへへっ、今日はここまでっ! ……また明日、学校でね。そんでね、放課後は慎也くんの部屋でお家映画デートするの、決定だからね――バイバイっ!!」
「………………わ、わかった」
砂緒はぴょんと降りると、耳まで真っ赤にし、目をぐるぐるさせながら猛ダッシュで帰宅。
キスの感触が残る頬を手で押さえながら、慎也はそれを見送って。
(あああああああああああ、もうっ!! 絶対これ顔真っ赤になってるっ、寝れないよ、今夜は絶対に寝れないよぉ~~~~~、なんであんな大胆なコトっ!)
(夢……じゃないよな、キス、されたんだよな今?)
慎也の秘密と愛の証は守られた、だが心の何処かが奪われてしまった気がして。
ともあれ、帰って部屋を掃除しようと慎也は立ち上がったのであった。
――それを、見ていた者が二人。
(………………ぼ、僕の慎也が取られるっ、いやでも親友の恋は応援したいし祝福……っ、だ、だがっ、不健全なコトをしてないかどうか確かめてやるぜ!!)
(ちょっと気になって来てみれば……ふふっ、明日は邪魔にならない程度に差し入れでも持って……)
慎也の親友である都築一蓮は、ラーメン屋の窓際の席から。
砂緒の先輩である野越のぞみは、変装した姿で雑貨屋の棚の陰から。
奇しくも、慎也の部屋に行くことを決めたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます