34.人間と神々の協力関係
「……ありがとう、ユハ」
「だから、僕が好きでやるんだって言ってるのに」
「エセルナートさんも、ありがとうございます」
「まだ何の力になれるのかもわからない身だがな」
ここにいるのがユハだけだったら、ぎゅうっと抱きしめて謝意を伝えたいところだったが、エセルナート相手にはさすがにそんなことはできないので、ぐっとこらえる。
すると、なぜかユハに胡乱げな目で見られた。
「……念のため言っておくけど、僕もリルカも、もう子どもじゃないんだからね」
「? そうね、そろそろ孤児院からも『卒業』だものね?」
孤児院では、一定の年齢以上になって手に職をつけて出ていくか、他の庇護を得て出ていくかすることを『卒業』と呼ぶ。
リルカはオリヴェルに引き抜かれた時点で卒業したようなものだったが、ユハも『魔術学院』の寮(遠方からの入学生以外では、優秀者のみしか入れないらしい)に入寮する話が出ていると聞いていた。つまり、独り立ちに近い。
「……これだもんな……。全然わかってない」
「え? じゃあ成人が近づいてきたわね、っていう話?」
「そうだけど、そうじゃない」
「?」
ユハの言う意味がわからなくて首を傾げる。なんとなくエセルナートに視線を向けるが、エセルナートも何の話なのだろうという顔をしていたので、ユハの言葉が足りないのだと結論した。
「もう、自分だけわかった顔で会話するの、ユハの悪い癖よ」
「リルカの察しが悪いだけだよ」
釘を刺すが、ユハは悪びれた様子もない。しかしそれ以上その話題を続けるつもりもないようで、視線をリルカから外す。
「リルカがこれからお世話になるっていうなら、【死と輪廻の神】には挨拶くらいしておきたいものだけど。あと【癒しの神】にも。拝神してない人間でもそれくらいは――」
「えー? ぼくには挨拶してくれないの?」
「……っ!」
突如目の前に逆さまに現れたティル=リルに、ユハが息を飲む。その様子にけらけらと笑って、ティル=リルは宙で一回転した。
「察しがよすぎるのは『三千年前』からのものかな? ぼくとよろしくしちゃうとまずいって本能で理解してるみたいだねぇ」
「ティル=リル様、ユハを驚かさないでください」
「だってあからさまに省かれたから~。これはつついとかないとと思って」
「神の心証が悪くなるからやめなさいな、ティル=リル」
「『リルカ』に関して、彼からの神への心証がよくなることなどなさそうだが……」
ティル=リルに続いてユースリスティとローディスもやってきて、神々が自主的にこちらに赴いてきた事実にちょっと目眩を感じつつ、リルカは神々と人間とをつなぐことにする。
「ええと、わかってると思うけど――こちらが【戯神ティル=リル】様、そして【癒しの神ユースリスティ】様と【死と輪廻の神ローディス】様よ。……お三方、こちらが私の幼馴染のユハ=ライラ、こちらがヴィシャス様の〈器〉のエセルナートさんです」
「ふふふ~、これから嫌が応にも関わることになるだろうから――二人とも、よろしくねぇ」
「ティル=リル、そういう言い方は人間を怖がらせるわよ? わかってやっているんでしょうけど。……わたくしは他の二神ほど関わることはなさそうだけど、一応よろしくね」
「……そもそも、『リルカ』のためには関わり合うことがない方がよいのだろうが……」
「気が合いますね、【死と輪廻の神】。でもリルカに関して、あなたとは連携を取った方がよさそうだ。――どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします、【癒しの神】、【死と輪廻の神】――それから【戯神】様」
ちょっとティル=リルとユハの態度にハラハラしたものの、ティル=リルについてはまあいつものことだし、ユハも畏敬とまではいかないが、敬う姿勢は見せているのでほっとする。
というか――。
「……確かに、これからのヴィシャスの行動を予想すると、人間界で自由に動ける者と連携を取るのは必須だろうな。――『ユハ』、だったか。誰かに拝神する予定は?」
「今のところありませんが、リルカに関して、拝神した方が何か都合がよいのであればやぶさかではありません」
「わあ、『リルカ』第一だねぇ。これはライバル出現かな? 同じ人間だし、これは協力し合ってる場合じゃないんじゃない、ローディス」
「……。いや、信仰は自由だ。予定がないのなら別に構わない。ただ、魔力を辿り声を降ろせるように、一度客神として魔力を捧げてくれないか?」
「あら、それならわたくしの方もお願い。何か力になれるかもしれないし。――ああ、『エセルナート』と言ったわね、あなたも『リルカ』を守るつもりがあるのなら、どう?」
「願ってもいない話だ。ぜひ」
「せっかくだからぼくも混ぜて混ぜて~」
「……。それで、客神として魔力を捧げるというのはどのように?」
「――ああ、そうか。やり方も知らないのか。『エセルナート』、君は?」
「俺も客神として神々のお力を借りたことがないので――」
「じゃあ、わたくしが手ほどきしてあげましょう。神直々の手ほどきなんて、滅多にないわよ?」
――なんだか、予想もしない方向で話が弾んでいるのは気のせいだろうか。気のせいだということにしたい。あと全員がティル=リルをスルーの方向で扱っているような気がするのも気のせいということにしたい。
とりあえずいろいろ言いたいことを呑み込んで、リルカは「客神としての力の借り方なら私が指南します!」と手を挙げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます