31.セヴェリの暴走と神々の赤裸々な近況
ヴィシャスのリルカへの認識を攪乱できないかと、ユハの提案で魔力を『混ぜた』こと、その状態でローディスに祈ったら、魔力は捧げられたものの、異変を感じたローディスが降臨してしまったこと、そこにティル=リルまでやってきてしまい、ティル=リルの作った空間で話をすることになったこと。そこにヴィシャスが現れ、相変わらずリルカを自分のもの扱いして神界へと連れて行こうとするのにローディスが怒り、ローディスとヴィシャスが一触即発な雰囲気になったこと、その時点でユハが空間から外に出されたこと。ティル=リルの言葉を受けて、神々と対話を試みたこと、そしてそれによって一定の理解を得られたため、今生でヴィシャスに無理やり神界に召し上げられるといった心配はいらなくなったこと。ユースリスティはリルカを心配して降りて来てくれたらしいこと。
それらを聞いたユハとエセルナートは、まず、「ヴィシャスの言は信頼できるのか?」ということを、そろって真剣な目で問うてきた。
「僕はよく知らないけど、神々っていうのは勝手なものだろう。放った言葉を翻すくらい簡単にするんじゃないか?」
「ユハ殿の懸念ももっともだ。そこまで神が人間を尊重してくれるものだろうか?」
「う……」
そればっかりは、相対したリルカでしかわからない感覚だろう。
それに、あえて話していなかった、リルカが死出の旅路に出てから神界に召し上げる話にも関わる。
それについて話そうかどうしようか迷ったそのとき――。
「ああっ、現世で神に直接会うことができるなんて! これは世界がこの邂逅を経てさらに研究を進めろと言っているに違いない! ……こちらは先ほど降臨に立ち会った【英雄神ヴィシャス】、こちらはもしや【戯神ティル=リル】? こちらの女神は【癒しの神ユースリスティ】に違いないね。そしてこちらは――ずいぶんと麗しいが【死と輪廻の神ローディス】かな?」
感極まったようなセヴェリの叫び声が聞こえて、リルカたち三人は反射的にそちらに目をやった。
先に動いたのはエセルナートだった。神々にかぶりつかんばかりの様子のセヴェリの後ろ襟をつかんで、引き離す。
「神々に不用意に近づくな! お前の言動は不安すぎる!」
「だって、神々だよ? 本物の、古代から在る、古き神々がここにいるんだよ? これは魔力や神術について聞くしかないじゃないか!」
「テンションを落とせ! 冷静になれ! お前拝神したこともないくせに直接お言葉を交わすつもりか!?」
賑やかに言い合うエセルナートとセヴェリを唖然として見守っていると、ひょいとティル=リルがやってきた。
「別に、面白そうだからぼくはいいけどねぇ。ローディスはやめといた方がいいんじゃない? ノリについていけなさそうだし。ユースリスティは礼節をもって、ヴィシャスは敬い褒め称える姿勢でいけばいけると思うよ」
「ティル=リル、私をなんだと思っている」
「だってローディス、テンション高いの苦手でしょ? ラヴィとかからよく逃げてるじゃない」
「……ラヴィエッタから逃げてるのは、言い寄られているからだ」
「ああ、ラヴィって各神と交わって新しい神生み出すのにハマってるもんねぇ。あとローディスと誰だっけ、ラヴィと子どもつくってないの」
「確か、この間ウィステーリアが押しに負けたんじゃなかったか? ラヴィエッタの掲げる『全神コンプリート』まではそうかからないだろう。さっさと陥落してしまえ」
「そういう奔放なところが合わないんだ……」
(【愛の神ラヴィエッタ】様……人間を神界に召し上げる逸話が減っていると思ったら、神々にご執心? だったのね)
神々の赤裸々な話に、ちょっとばかりドキドキしてしまう。と、そんなリルカの様子を見て、ローディスがどこか焦ったように言った。
「そ、その、誤解しないでほしい。本当に、言い寄られているというだけで、そういう関係はない」
「なんだ、ローディス。人間は一途なものを好むからって、自分だけ印象をよくしようなんて、――いや、確かにおまえは他の神とそういう関係になったことがないな。それはそれでどうなんだ?」
「放っておいてくれ……」
「……?」
どうしてローディスが言い訳のようなことを言ったのかわからず、内心首を傾げていると、それを察したらしいティル=リルに「きみはまだわからなくてもいいんじゃない? 今は、だけど」と言われた。その意味もよくわからず、けれど追求するのも違う気がして、リルカはひとまず心の中の疑問の箱にしまっておくことにした。
ちょっと離れたところでは、「ほら、【戯神ティル=リル】もああ言っていることだし、この機は逃せない! 【死と輪廻の神ローディス】に話を聞くのは諦めるけど、他の三神ならいいだろう!?」「だから! その! テンションをまず落とせと!!」とセヴェリとエセルナートが相変わらずの会話をしているし、ユハはユハで「ああいうことを言うってことは、やっぱり神々は信用ならないな……」とか呟いているしで、正直収拾がつかない。
ティル=リルが三人をこの空間に入れたときに予想したとおりの混沌とした有様に、しかしこの状況をどうにか整理できるのはおそらく自分だけだとわかってしまって、ついため息を吐く。
神々が神界に帰る様子がないということは、つまりそういうことなのだろうと判断して、リルカはまず神々とセヴェリを繋ぐために動き出したのだった。
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