第9話 サッカー・ボール

――魔天聖愛学園ビバ・ラブアカデミー理事長室。


俺は授業をさぼり、サイクを連れて理事長室へとやって来ていた。


「という訳で、こいつを一般科に編入させろ。後、こいつ用の寮の部屋も」


俺は横にいる、俺と似た姿へと生まれ変わったサイクの編入を理事長に命令する。

今のサイクの身長は俺と同じぐらいで、更に目玉も100%増量して二つになっているので、こいつを単眼のサイクロプスと考える奴はいないだろう。


目玉百個ぐらいつけてやろうと思っていたんだが、サイクが泣きわめいて五月蠅かったので、仕方なく二個で許してやっている。


あ、言うまでもなく、サイクの姿は俺が加工して細工した結果だ。

アートはスプラッタとならぶ俺の得意分野だからな。

この手の芸当はお手の物よ。


「えーっと、何がという訳なのでしょうか?おっしゃられてる意味が……」


「察しろアスペ。けつの穴から手を突っ込んで、そのスカスカの中身のない頭引っこ抜くぞ」


説明を省いたぐらいで疑問を持つとか、使えない奴だ。

察しろよな。


「ひっ!?お許しくを!すぐさま手続きにかかりますので!!」


俺の言葉に、カエル魔人である理事長が土下座する。


「おう、頼むぞ。ああ、後……」


俺はお腹に張り付けたポケットから、サイクの死体を引きずり出す。


え?

よくそんなの入ってたな?


今の俺に不可能はない。

FIN。


「っぼっぼぼぼぼ、墓地様!?これは!?」


「こいつは俺に逆らったから始末した。自殺で処理しといてくれ」


別に俺は行方不明でもいいと思ってたんだが、それだとサイクロプス族に迷惑がかかるかもしれないと、サイクに泣きつかれてしまったのだ。


追放される(たぶん)とわかっていても、それでもサイクにとっては家族が大事だったのだろう。

泣かせる話だったので俺はその場で腕を引っこ抜き、それを加工してダミーを用意してやったという訳である。

俺って、ホント優しいよな。


「か、畏まりました」


「あ、そうそう。こいつは……ボッチー族の親戚にあたる、ボール族のサッカー。サッカー・ボールって名前だから宜しく」


用は済んだので、理事長室からおさらばする。


「あの……ムソウ様はいったい何者なのでしょうか?」


遅刻とか不名誉なので、無断欠勤する事に決め適当に街をぶらつく。

で、ちょっと腹が減ってきたので、フードコート形式の店に入って飯を食べていると――もちろんサイクの金で――理事長室を出た後からずっと黙って俺について来たサイクが、思いつめた様な表情で口を開いた。


「あん?」


「ひょっとして、大貴族の隠し子とかだったりするんでしょうか?」


「なんでそう思ったんだ?」


「だって……腕を引きちぎって、そこから死体を作って見せたり。俺の姿をこうやって別物に変えるなんてマネ、普通じゃできませんよ。それに、あの理事長を顎で扱ってますし。大貴族の血を引いてるとしか……いや、ひょっとして……ムソウ様は皇族の……」


色々出来るから、サイクは俺がやんごとなき生まれと勘違いしてしまった様だ。

まあ確かに、俺の偉人オーラは隠そうと思っても隠しきれるものではないので、こいつがそう勘違いするのも無理はない。


「俺はバリバリの平民だぞ。貴族でも皇族でもねーよ」


それどころか、もはや魔物ですらない。

そんな俺が、何をどうしたら貴族や皇族の血を引けると言うのか。

まあ人間である事は説明しないが。


「そ、そうなんですか」


「自分の事を強いて言うなら……超絶天才。そう、スーパーボッチだ」


「はぁ……そうなんですか」


どうやら俺の説明にピンとこなかった様だ。

まあ天才ってのは孤高だからな。

能なしの凡人に、理解を求めるのは無茶という物である。


「ま、細かい事は気にすんな」


俺はスパゲティを啜る。

まあスパゲティと言っても、小麦なんかで出来た麺ではなく、細長い線虫みたいない生き物の麺だが。


え?

グロイ?


いやいや。

見た目はあれだが、結構いけるんだな。

これが。


なんなら、俺の人生の中で、5本の指に入ったり入らなかったりするレベルである。

魔界おそるべし。


「ムソウ様……確かに、貴方様が何者かなんて些細な事ですよね。貴方様は、絶望的な状況の私を救ってくださった。それが全て」


俺の前に座っていたサイクが席から立ちあがり、そして片膝をついて跪く。


「その恩義に報いるため、このサイク……いえ、サッカー・ボール。ムソウ・ボッチー様に永遠の忠誠をここに誓います。どうか私に、貴方様の下僕として仕える事をお許しください」


「召使になりたいのか?まあ別にいいけど……給料とか出さねーぞ。俺貧乏だし」


金があったら、サイクに飯をたかって等いないからな。

なので、こいつに払う給料などない。


……魔界の癖に、案外治安がいいんだよなぁ。


夜な夜な街に繰り出しているのだが、絡んでくる奴が全くいない。

そのせいか、俺の財布は常に財政難を訴えかけていた。

困った事である。


「貴方様の側に仕えさせて頂く事。それ以上の褒美などありましょうか」


奇特な奴である。

地球でも、笑顔が最高の報酬だとか綺麗ごとを抜かす奴らが少数ながらいた。

こいつはそういう奴らと同類なのだろう。


自分のためにしか動かない俺とは、まさに対極な存在と言えるだろう。


「あっそ。言っとくけど、俺は魔物使いが荒いぞ」


「何なりとお申し付けください。このサッカー、身命を賭して任務にあたる次第でございます」


「そうか。まあ精々頑張れ」


適当にあしらい。

飯に戻ろうとして――


ん?


その時、自分の中の変化。

違和感に俺は気づく。


あれ?

力が上がった?


そう、俺の力が今、確かに上がったのだ。

全体から見ればそれは極々微量な物だったが、間違いない。


なんで急に力が上がったんだ?

謎だ?

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