第10話 フィアンセ

私の名前はモモエ・ヒャック。

花も恥じらう16歳。


自分でいうのもなんだが、私は物凄く可愛い。

いや、もう超絶可愛いと言ってもいいだろう。

なにせ難関と言われる魔天聖愛学園ビバ・ラブアカデミーへの試験を、この美貌によって勝ち取ったほどだもの。


あ、一芸入学枠ね。

一芸入学枠。

別に卑猥な事をした訳じゃないからあしからず。


そんな私の夢は、強く美しく性格のいい貴族との結婚たまのこしである。


普通なら、一般枠の人間が、エリートである貴族と結ばれるなんておこがましいと考えるだろう。

だが私にはこの美貌がある。

そう、一芸入学すらも勝ち取った、この学園屈指の美貌が。


そんな希望を胸に望んだ学園生活だったが、現実は甘くなかった。

一般科と超越科は校舎が完全に分かれており、一般科に通う私はエリートの方々と知り合う機会が訪れなかったのだ。

そのため、告白やアプローチしてくるのは同じ一般科の有象無象ばかり。


もうがっかり。

とか思ってたら、入学前に私を酷い目に合わせたキチガイ事、軍曹ムソウ・ボッチーまで転入してくる始末。


私に気があったクラスメイト。

まあほぼ全男子ね。


その男子連中が、私に気安く話しかけた軍曹に喧嘩を吹っ掛け。

結果、瞬く間にクラスは軍曹によって制圧されてしまう。

あの時は冗談抜きで、『ああ、私の学園生活は終わった』と考えた物だ。


だがサイクロプス族のサイクがクラスに訪れた事で、流れが変わる。


タイロン家の下僕であるサイクに手を出した事で、クラスの皆は報復御恐れて極端に軍曹との接触を避ける様になった。

軍曹もその事を気にしていない様だったので、私もそれに便乗して距離を置くことに成功する。


そう、私の明るい青春が返って来たのだ。


さあ、玉の輿計画再会よ!

とか思ってたら、私は学園に通うある貴族の遣いから声をかけられる。

どうやら遠くからちらりと姿を見て、貴族の子息が私に一目ぼれしてしまった様だ。


ああ、私は何て罪な女なのでしょう。

遠くから一目見ただけで虜にしてしまうなんて、自分の美しさが恨めしいぐらい。


ただ難点を上げるなら、相手はどうやら男爵家の魔族だという点である。

まあ一般とは比べられないけど、所詮貴族の中で男爵家は最下層。

クラスにやって来たサイクが、あっさりタイロン家に切り捨てられた事からもその事がよく分かるだろう。


そもそも、男爵家如きが私と付き合いたいなど厚かましいと言わざるえない。

なにせ私は美貌で一芸入学をパスした世紀の超美少女なのだ。

侯爵家とは言わないまでも、せめて子爵家ぐらいでないと話にならないわ。


だから、今は学業に専念したいと言うありきたりな理由で断るつもりで相手と面談をした訳だけど――


「貴方は私の運命の相手だケロ」


招待された場にいたのは、醜いカエル男だった。

明らかに女にモテなさそうなその容貌から、私はすぐにその男が地雷であると感じとる。

基本的にモテない奴程、しつこくして来る物だから。


嫌な予感を感じつつも、私は断りの言葉を口にする。


「えっと、急にそういわれましても……私達は学生ですので、今は勉学に励み……」


「今すぐ私と結婚するケロ!」


が、そんな私の言葉を遮り、カエル男はパーソナルゾーンなど知った事かと言わんばかりにプロポーズをぶっこんで来た。


「あのですね……結婚は早いと言うか……」


「子供は100人欲しいケロ。だから今すぐ結婚するケロ」


これはまずい。

想像以上にやばい奴だ。

やばすぎて会話がまともに成り立たない。


私の脳内で、非常事態宣言のエマージェンシーコールが何り引く。

何とかしないと私の人生がここで終わるぞ、と。


パニックになった私は、咄嗟にデタラメを口にする。


「私!婚約者がいるんです!」


と。

そしてさらに、ありえない名を口にしてしまう。


「ムソウ・ボッチーって言う超強くて素敵な婚約者が!」


いやだって、咄嗟に名前が浮かばなかったんだもん。

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