第8話 勧め

「う……」


「よお、目が覚めたか?」


サイクの状態は、両手両足が骨の粉砕。

あと背骨が折れて、内臓にも結構なダメージが入っていた程度の……まあ軽傷だった。


え?

軽傷じゃない?


魔物なんだから、これぐらい唾でも付けときゃ治るだろ。

たぶん。

知らんけど。


まあでも、唾つけて治るのを待つのも面倒だったので、今回は魔法で回復してやったが。


「お前は!?それにここは!?」


地面に転がっていたサイクが、上半身をガバッと起き上がらせ周囲を見渡す。


「お前が……俺を降ろしたのか?」


「おう。学び舎の門でSMプレイは流石に見苦しかったからな」


良い子が真似したら偉い事である。


「俺の怪我を直したのも……お前なのか?」


「そのままじゃ、蹴りにくそうだっからな」


サッカーボールは蹴る物だ。

そして気持ちよく蹴るには、綺麗に磨いておく必要がある。

サッカー部員は毎日ボールの手入れをするのは、そのためと言っていいだろう。


唯々気持ちよく蹴り飛ばしたい。

それこそが、サッカー少年の願いなのだ。


つまりドSという訳である。


「なんで……なんで俺を助けたんだ?」


質問の多い奴である。


「もちろん……それは俺が正義の味方だからだ」


こう見えて、自分勇者ですから。

危険人物として地球への帰還を神に拒否られはしたけど、それは些細な事。

そう、俺は勇者なのだ。


因みに勇者と言わなかったのは、それだと自分が人間だと白状するようなものだからである。


俺は正義の味方で。

そして勇者ではあるが。

嘘もつく。


何故なら、自分に死ぬほど甘いから。


「正義……不意打ちで人の事をぶちのめしておいて、よくそんな言葉が言えるもんだ」


「なにいってんだ?不意打ちってのは立派な戦術だろ。何も知らない奴に仕掛けるのならともかく、決闘するって決まった相手に遠慮する理由なんてねーよ。戦う相手に無防備に背中を向けたお前が間抜けなだけだ」


「……一理あるな。すべては……俺の甘さが招いた失態……」


どうやら納得してくれた様だ。

まあ実際はなんとなくでやっただけだが、我ながら見事な弁であると惚れぼれする。

そもそも、くそ雑魚相手に戦術なんざ必要ないしな。


「くそっ!くそくそくそくそ!俺はどうしたらいいんだ!!」


サイクが急に喚きだす。

どうやら彼は癇癪持ちの様だ。


まずは助けてくれてありがとうございますだろうに。

せめて癇癪は礼を言ってから起こせよな。


「ううぅぅぅぅ……」


そして今度は泣き出した。

情緒不安定な奴である。


「ぐわっ!?」


「男の癖にめそめそ泣くな」


鬱陶しいので蹴っ飛ばす。

もちろん俺も鬼ではないので、ちゃんとソフトタッチだぞ。

その証拠に、3メートルぐらいしか吹っ飛んでいない。


「お前に……俺の何が分かるんだ。俺はもう……もう終わりなんだ。これからどう生きて行きゃいいんだよ!」


「何言ってんだ?普通に学園に通えよ」


学生なんだから、勉学に励め馬いいだろうに。

意味の分からん奴だ。


「は、ははは……学園に通えだって?タイロンがそんな事、許す訳ないだろ。それに、今回の事は家にすぐ伝わるはずだ。そうなったら、俺は一族から追放されて貴族でも何でもなくなる。この学園に残る事も出来やしねぇんだ」


そういや、ロイヤルは貴族だけだったか。

なら平民になったら、退学させられてもしょうがないのか。


まあでも――


「じゃあ働けよ。力には自信があるんだろ?」


働きゃいいよな?


俺から見たら虚弱っ子極まりない奴だが、魔界の平均から見たら、貴族であるサイクは一応上澄みレベルの能力のはず。

なので、十分働いて生計を立てられるだろう。

日本でだって、高校に行かず働いてるやつなんて普通にいたし。


「働け?失態を犯してバロン家に睨まれた様な奴を、誰が雇うってんだ?まともな仕事になんかつける訳ねぇ。俺は……俺はもう終わりなんだよ!」


仕事に貴賎なし。

選べなければ働けるんだったら、別に終わりって事もないと思うがな。

まあそれは、恵まれた立場の人間が持つ綺麗ごとか。


そもそもここは魔界だから、俺の想像してるのより何倍も酷い仕事があってもおかしくなはいからな。


「終わりねぇ……じゃあ死ぬか?」


「へ?」


「死ねば問題は解決するだろ?」


――困った時は死ぬに限る。


俺は自殺を否定したりはしない。

自分の人生は自分で決めるものだ。

その結果、自分が楽になるため死を選ぶのも一つの手である。


周りに迷惑がかかる?


細かい事気にすんな。

もし万一迷惑がかかるなんて言ってくる奴には、死ぬほど迷惑をかけてやればいい。

そんな事を言う奴らに気を使う必要はない。

断言できる。


悲しむ人間がいる?


俺にそんなものはいない!

いや、ビート辺りは悲しむ気はしなくもないか。


って、考えがずれて来たな。

そもそも、今回の話は別に自殺の勧めでも何でもないし。


「今のままじゃ生きていけないんだろ?だったら……死んで生まれ変わればいい」


呆然と俺を見るサイクに向かって、俺はドヤ顔でそう告げる。

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