第7話 名言
「なんだあれ?」
朝、学生寮から学校に登校しようとして、アーチ形の門のてっぺん部分に変な物がぶら下げられていたので俺は足を止める。、
門に吊るされていたのは――
「サイクか?」
わが友。
サッカーボール事、サイクだった。
「なんでぶら下がってるんだ?新しい遊び?」
まあ遊びと考えるには、ボコボコにされてズタボロっぽいビジュアルではあるが。
誰かにつるされたと考えるのが妥当だろう。
「エテ公。どうなってるんだ」
正門付近にエテ公がいたので声をかける。
「あ、兄貴!どうやらサイクが粛清にあったみたいです」
「粛清?」
「ほら、あれ」
エテ公が校門に張り付けてある張り紙を指さす。
そこには――
『この者。栄えあるバロン侯爵家長子タイロン様の配下を騙ったため、磔の刑に処す』
――と書いてあった。
「なんだ。あれって騙りだったのか?」
サイクは最初に教室に来たさい、タイロンって奴の配下を名乗っていた。
が、あれはどうやらタダの騙りだったようだ。
「そんな訳ないじゃないですか。切り捨てられたんですよ。兄貴にボコボコにされたから。名門はメンツを気にしますから。部下の失敗を勝手に騙られたって事にして、なかった事にしたみたいですね」
「ケツの穴のちっさい奴らだな。けど……なんで誰も下ろそうとしないんだ?」
登校している生徒は結構な数だ。
が、その中にサイクを下ろしてやろうとするような奴はいなかった。
「喧嘩は自由っていっても、普通誰か助けてやろうとするもんだろうが」
この学園、実は喧嘩には寛容だったりする。
まあ相手を殺すのは流石にまずいが、喧嘩をしたからと言って強く罰せられる様な事はない。
――何故なら、魔物の通う場所だから。
だからこそ、俺も気兼ねなくサイクでサッカーができたのだ。
まあ喧嘩オッケーじゃなくても、問題なくやってたとは思うが……この際、それはどうでもいいだろう。
「張り紙にタイロンの名が書いてありますからね。みんな、バロン家に睨まれるのが嫌なんですよ」
学園内は、身分や立場を持ち込まない決まりになっている。
が、外に出たら報復や嫌がらせがまっているので、実質そのルールは形骸化していた。
なので睨まれるのを恐れて、誰も手出し出来ないという訳だ。
「魔物の癖に、根性なしばっかだな」
何も考えず、取り合えず『ぐおおおお!』とか言って暴れるのが魔物だろうに。
この世界の魔物はほんと、無駄に人間そっくりでいやになる、
「どれ」
俺は鼻の穴から怪光線を放ち、サイクを縛っているロープを焼き切る。
鼻から出したのは、その方が魔物っぽいからだ。
軟弱な人間は、すーぐ手とか足とかから出しがちだからな。
「あ、兄貴。そんな事も出来るんすね」
「魔物ですから」
「そうですか……でもいいんですか?サイクは関係ないって切り捨てられましたから、余計な事をしない限りタイロンは俺達に絡んでこなかったはずっすよ。でも、こいつを助けちまったら……」
「エテ公。お前に一ついい事を教えてやろう。サッカーボールってのは、ああいう風に吊るす物じゃない。足で蹴る物だ」
俺はどや顔でそういう。
きっとこの言葉は、名言としてエテ公の家に代々受け継がれていくに違いない。
知らんけど。
「な、なるほど。所で、あのー……サッカーボールって何ですか?」
サッカーボールも知らねぇのかよ
これだから学のない奴は困る。
まあでも、所詮こいつはエテ公だからな。
仕方ない事なのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます