第5話 ナイスガッツだ
「俺を殴った奴は誰だ!」
授業が終わり、学生寮に返ろうとしたらサイクロプスのサイクが元気な姿で教室に飛び込んできた。
殴ったはずのお目目はぱっちり開いていたので、回復魔法でもかけて貰ったのだろう。
魔法ってホント凄いよな。
なにせ死人だって生き返らせられるんだぜ。
まあ俺以外の他の奴が、死者蘇生出来るのかは知らんが。
「でてこぉい!」
サイクが青筋を立てて雄叫びを上げる。
教師はまだ教室にいたが、我関せずと言わんばかりにそそくさと教室から出て行ってしまう。
どうやら学生同士の揉め事に首を突っ込む気はない様だ。
ゴミの様な教師に思えるかもしれないが、まあここは魔界だしな。
自分の力で何とかするってのが、魔界での基本なんだろう。
たぶん。
「よう兄弟。何をそんなにイライラしてるんだ?」
殴り合いからの握手を交わしているので、もう奴と俺は親友と言っても過言でない。
ので、フレンドリーに話しかけた。
「なんだてめぇは!」
「墓地無双ですが何か?」
「テメェふざけてんじゃねぇぞ!俺は機嫌が悪いんだ!さっさと俺を殴った奴を出せ!」
思いっきり目の前にいる訳だが?
どうやらこいつ、俺の動きが全く見えてなかった様だな。
「俺ですが何か?」
「はぁ!テメェみたいなひょろい奴にこの俺様が吹き飛ばされる訳ねぇだろうが!!」
信じて貰えなかった。
まあ体格は小さいからな。
あ、勘違いしないでくれ。
小さいってのは、あくまでもこの学園に通う魔物達の中ではってだけだ。
なにせエテ公ですら俺より一回りぐらいデカいからな。
なので俺はチビではない。
「いいだろう……名乗り出ねぇってんなら、このクラスの奴ら全員半殺しにするだけだ」
サイクが腕を十字にしてから、それを勢いよく開く。
次の瞬間、上着がはじけ飛びなかから見事なマッチョボディが姿を現した。
ゲームなどでよくある第二形態って奴である。
まあちょっと違うか。
とりあえず。
俺は――
「このクラスの平和は俺が守る!」
――生後の味方っぽく、サイクをぶん殴った。
もちろん、今度もそのデカい目玉を。
なにせここを殴ってくだ歳と言わんばかりの形状だからな。
そりゃ殴るに決まってる。
「目がぁ!目がぁぁぁ!!」
「なんだ、言えたじゃねぇか」
お約束の言葉に、俺はほっこりする。
教えてもいないのに学習する当たり、将来有望と言え技るえない。
……成長した褒美に、
「サイク。サッカーしようぜ」
殴りあったらマブダチ。
そう、暴力の先にあるのは爽やかなスポーツであるべきだ。
「ただしお前のポジション、サッカーボールな!」
――キックオフ。
俺は地面を転がる
その筋肉の塊の様な肉体が躍動感全開で弾け、教室の壁を、そして廊下の壁も突き破って飛び出し、外界へと旅立たっていく。
さらば友よ。
サッカーボールは友達。
これは有名な少年サッカー漫画の主人公が口にした言葉である。
つまり、友人とは殴る蹴るするもの。
という訳だ。
大人気少年漫画で言ってたぐらいだからな。
きっと正しいに違いない。
「やれやれ。サイクの奴、まーた校舎壊していきやがった。まあしょうがない。友人のために俺が一肌脱いでやろう」
教室や廊下を魔法で修復し、俺は教室を後にした。
――翌朝、朝礼前。
「ボチムソウ!」
教室でエテ公の御機嫌取りを受けていると、再びサイクがやって来た。
あれだけやられて、また直ぐにやって来るとか中々のガッツの持ち主である。
さすが俺の魔界での親友第一号だ。
「おうサイク。何か用か?金なら貸さんぞ。俺も貧乏だからな」
「ふざけるな!昨日はよくも不意打ちしてくれたな!」
不意打ち?
あれって不意打ちになるのか?
パンプアップで服びりびりー。
からの全員ぶっ殺してやるって言ってたから、てっきり戦闘準備万端なんだと思ってたんだが……あれでもまだ心の準備が出来てなかったって事?
バンジージャンプを直前でビビるチキンじゃあるまいし。
「貴様にこのサイクが、魔族として正当な決闘を申し込む!!」
「いいぜ。受けて立ってやる」
どうしても決闘したいってんなら、まあ受けてやるさ。
断っても絶対五月蠅いだけだろうし。
「ついてこい!決闘場は用意して――」
「ドライブシュート!!」
サイクが背中を向けた瞬間、俺はその背中を蹴り飛ばす。
蹴られたサイクの体は勢いよく吹っ飛び、三度教室と廊下の壁を突き破って外に飛んで行く。
「いやほんと、お前サッカーボール役にぴったりだわ」
え?
決闘を受けたのに何で不意打ちしたのか?
いやいや、不意打ちでも何でもないだろ。
決闘しようよ。
オッケーって返事した時点で、既にもう決闘は始まっていた。
つまり、奴が決闘中に急に背中を向けただけである。
……戦闘中に敵に背中を向けるとか、この世界の魔物はほんと間抜けだな。
「あーあ。まーた、教室直さなくっちゃならないじゃねぇか。ほんと、サイクの奴は手がかかるわ」
手間のかかる友人のため壊れた場所を修復し、俺は席に戻った。
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