第4話 ゴートゥーヘル
そしてバビロン魔帝国は魔界にある三大国家のひとつであり、皇帝を中心に五大侯爵家と呼ばれる大貴族が支配する地となっている。
byエテ公。
「ふーん。今年は五大侯爵家の跡取り候補の5人が
「そうです」
「やんごとなき身分で、俺とは縁もゆかりも全くない魔族だな。で?そいつが一体どうしたんだ?」
「いや……どうしたのかじゃなくってですね。兄貴、思いっきりタイロンの手下をぶっ飛ばしてたじゃないですか」
「ああ、それか。それなら大丈夫だ。俺がやったって証拠はないからな」
奴が吹っ飛んでいった痕跡は、建物を修理した事で全て消えている。
残る証拠は、吹っ飛んでいったとうのサイクロプスだけだ。
なので、適当にしらを切ってれば完全犯罪成立である。
え?
サイクロプスが告げ口する?
それなら大丈夫。
あいつとは握手で和解したから。
「いやいやいやいや!衆人環視の中!思いっきり吹っ飛ばしていたじゃないですか!他のクラスの奴らも廊下から見てましたし、あのサイクって奴が黙ってるわけありませんよ」
「考えすぎだろ。後、誰が兄貴だ!」
「うぎゃっ!」
猿の弟なんかを持った覚えはないからな。
勝手に身内を名乗る、オレオレ詐欺の亜種みたいな真似をするエテ公を蹴り飛ばして成敗してやった。
「う、うぅ……ムソウさん、そう呼んでも良いって言ってくれたじゃないですかぁ」
「あれ?そうだったっけか?すまんすまん。果てしなくどうでもいい事だから、きっと脳が勝手にデリートしちまったみたいだ。許せ」
どうやら自分で許可を出してしまっていたようだ。
俺は謝りつつ、エテ公を回復させてやる。
そもそもかなり手加減してるから怪我なんてしていないとは思うが、一応念のため。
「それは気にしてません。けど……いくら兄貴が強くても、タイロンを敵に回すのは流石にやばいんじゃないかと。噂じゃ、今年は言ってきた五大侯爵家の子息は全員超魔らしいですし」
超魔ってのは、魔物の強さを指すランクの様物だ。
平魔――ざこ。
戦魔――ちょっとはマシ。
上魔――貴族に雇われるレベル、もしくは低位貴族。
超魔――成人した大貴族に求められる水準。
極魔――大貴族の当主とか、王族。
天魔——最強!
まあこんな感じ。
「それに学園内に関しては外からの干渉は出来ないって言われてますけど……それは学生の間だけで、その辺りを勘違いして貴族相手にふざけた態度を取った奴が卒業後に消されたなんて噂もありますし……」
この学園は身分の貴賤による差別をなくすため、貴族は学園に口出し手出しができない様になっている。
できるだけ良好な環境で、より優秀な卒業生を輩出するためな訳だが……まあそんな物は所詮建前上の話だ。
手出しできないのが学生の間だけな時点で、庇護のなくなる卒業後にしわ寄せがやって来るのは明白だからな。
なので結局身分によるヒエラルキーは健在、という訳である。
超越科のサイクが、偉そうに支配どうこう言いに来た事がそのいい証拠だ。
「心配するな。因縁吹っ掛けてきても、ちゃんと穏便に済ませるから。さっきみたいに」
俺の目的は、この学園で色々な魔界の技術を手に入れる事である。
馬鹿貴族と戯れるつもりなどないので、上手くとりなしてやるさ。
この拳で。
「兄貴……神経図太すぎません?」
エテ公が、何言ってんだって顔をする。
「俺ほど繊細な奴はいないぞ。お絵描きとかで失敗すると超へこむし」
「そうですか……」
「それより随分とクラスが静かだな」
モモミは自分の席に戻ってるし。
教室内に視線を巡らせてみると、クラスの奴ら全員なぜか俺から目をそらしてしまう。
「俺と目を合わせようとしないな。ははーん、さては俺に惚れたな」
さっきのサイクとの熱い友情劇に心打たれれ、皆俺に惚れたに違いない。
だから気恥ずかしくて目が合わせられないのだろう。
モテる男はつらいぜ。
「いや皆、単に巻き込まれたくないから距離を取ってるだけじゃないかと……」
「ふむ……まあそういう考え方も出来なくはないか。ところでお前は平気なのか?」
「俺ですか……俺は平凡な家に生まれました。親からは目立たず平凡に生きろって言われてて――」
聞いてもいないのに、エテ公が勝手に身の上話を始める。
この年頃はすーぐ自分の事を語りだすから困るな。
「周りが決めた殻に嫌気がさして、そして必死に努力してこの学園に入ったんです。自分でいうのもなんですけど、俺って地元じゃ敵なしだったんですよ」
地元で敵無しとか、不良がよく言う法螺話じゃねーか。
だいたいそのサルみたいな見た目で強いわけがない。
「けど、学園に入っては見た物の……俺の力は一般科でも中の下程度でした。酷く打ちのめされました。そんな時に、彗星の様に俺の目の前に現れたのが兄貴だったんです!」
エテ公が興奮して声を荒げる。
ああ、言っておくけど唾は全部見えないバリアーで弾いてるぞ。
サイクの時に学んだからな。
魔物が大声を出すと唾が飛んでくるって事を。
だからバリアーを張り始めたのだ。
転ばぬ先の杖である。
「それで俺は決めたんです!俺じゃ上に上がれない!でもこの人なら違う!だから兄貴にどんな事があってもついて行こうって!それこそ命を賭けて!!」
エテ公がキラキラした目で俺を見て来る。
凄い爽やかな顔してるけど、今の話を纏めると『甘い汁を啜らせろ』な訳だが?
まあ人を見る目だけはあると言わざるえない。
なにせ俺、超絶強いしな。
多分この魔界で、俺と真面に闘える奴がいないレベルで。
だがその判断は、マイナス100点と言わざるえない。
だって俺は静かに勉強するために学園に来たんだからな。
のし上がる気なんてゼロだ。
もうなんなら、最後は魔界を亡ぼすって選択肢すらあるからな。
そもそも、魔物を皆殺しにするために来た訳だし……
「だから俺!兄貴に地獄の果てまでお供します!」
本当に地獄に行く事になるかもね!
俺の手で!
そんな突っ込みを、俺は心の中でだけするのだった。
まあまだ保留だしな。
そこんとこは。
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