君は。君だけは。/設定

【リュベリアル・セルナン・ルーフォクス/ルベル(愛称)】


 節制を理念として掲げる国家、アウランティの第一王子。

 王と正妃の第一子。

 王には側妃三人、その王子が四人。王太子として仮認定されているが、成人するまで正式なものではなく実権はない。王子たちはその間に品定めされることとなり、仮の王太子が王の器ではないと判断されれば、暗殺や左遷に合うことになる。

 ルベルの父母(王・王妃)は強い権力を持っているが、国内では古参貴族の勢力が大きく、水面下で政権争いが絶えない。父と母は仲は良く、母である正妃の勢力が強いために王太子に据えられているものの、覆される可能性は大いにある。

 そのため、品行方正、清廉潔白で、常に王として相応しいという印象を持たせなければならない状況で育つ。父と母という思惑が異なるかもしれない二つの勢力の遣わした臣下に囲まれて常に監視されているに等しかったため、誰にも文句をつけられないよう弱みを見せず、本音を隠して生きてきた。


 国民を慮り良政をしくことが美徳であるため、そういった規範の中で育てられ、本音と建て前を使い分ける賢さ、腹黒さを持ちながらも、根は真面目で努力家の正義漢。己の置かれている立場を理解し、また、己に必要なものや方法を計算できるほどに聡い。

 ただし、諦念の中で生きているため私欲は薄い。


 ファスに出会ったのは、隣国での公務の帰りに自国にはない奴隷商を視察したとき。

 純粋に子どもたちが酷い扱いを受けていることが腹立たしく、衝動的に買い取った。

 ファスに目が留まったのは、何の教育もされずに悪辣な環境にいるはずの子どもたちが、あまりに良く躾けられていたから。自分と余り変わらない年頃のファスの有能さに気づき、将来自分に力を貸してくれる人材になればいいなと少しばかり期待した。


 子どもたちを預けたのは乳母の元。母と乳母は以前仲が良かったが、ルベルが幼い頃に、乳母が勢力争いに巻き込まれることを危惧した母が、彼女を領地へと返していた。

 何の欲も覗かせず、子どもらしい失態も見せないルベルが頼ってくれたことに、乳母は喜んで力を貸してくれた。

 基本的に奴隷の子どもたちのことは秘匿されていたが、孤児院で力を貸してくれた大人たちは概ね母の勢力の人間であるため、母はその情報を知り黙認していた。

 ルベルが奴隷を買った事実が明るみに出なかったのは、自分のたった一人の息子に何としても王位を継がせたい母が、陰で情報操作したおかげでもある。


 ファスを召し上げたのは、純粋にファスの能力を買ってのことだった。

 この時点でのルベルの想いとしては、一緒に地獄への道を歩いてくれる部下ができたというもの。

 ファスを侍従として側に仕えさせるうちに、ほんの少し心の内を零すようになり、それが受け入れられ、またファスが裏切らないことを確信すると(元々命を懸けて自分と交渉したのである程度の信用はあった)、甘えを見せるようになった。


 成人した後に、初めて権力を行使してファスに爵位を与えたことで、母はルベルが侍従に誑かされているのではないかと危機感を抱く。

 そして、ファスをさらい、密室に閉じ込めて生きているのがやっとな状況で拷問する。むしろ、大義の名の元で殺すつもりだった。

 ファスがルベルのために命を懸けていることを覆さず、普段言いなりのいい子であったルベルに懇願されて、母はファスを返した。

 その痛ましい様を見て、それでも自分の為に命を張っているファスの姿を見て、「ファスは絶対に裏切らないから大丈夫」とルベルの心に刻み込まれた。


 ファスはその命までも自分の所有物なのだから、人にカウントしなくていい。

 人に見せられない見苦しく未熟な姿も、ファスになら見せていい。

 王と王妃の政略で、自分の意思の欠片もなく、最善の相手と結婚し、その相手だけを愛さなければならない。

 だけど、ファスは自分の所有物だから、人にカウントしなくていいのだから、自分で選んで、求めて、愛することを叶えてもいい。

 歪んだ想いが、執着となり、依存してゆく。

 ファスはルベルに全てを捧げた臣下で、断る術を持たずに命令ならば聞くだろう。それは愛ではないのだから、自分は愛されることも求められることもないと知りながら、浸ってゆく。決して拒否されることもないことも、真実なのだ。



【ファシウス・アクティ/ファス(1st)】


 奴隷制度が特権として存在する国の奴隷。肌や髪や瞳の色はその国にありふれたもので、地味。顔も取り立てて整っている訳ではない。


 幼い頃から奴隷商の子ども部屋で過ごしてきたため、そこでのルールに詳しかった。成長するにつれ、自分より幼い子どもが虐げられることに心を痛め、粗相をしないように子どもたちを教育したり、生活の糧を得ることができるように高級奴隷や顧客に仕事を貰ったり、子どもの奉仕をあっせんしたり、その下準備をするなどしてきた。

 年の近い子どもたちはファスに習い子どもを教育するようになり、小さい子どもたちは統制されてきた。奴隷商の上役たちは、ファスの働き自体にはそう興味はないが、上手く子どもたちをまとめ上げていて、子どもの病死や粗相も減っていたので、ファスに部屋を任せるようになった。


 洞察力に優れていて地頭が良い。無駄口を叩かずに策略を練って敵を欺くタイプ。

 ルベルに引き取られてからは、子どもたちを救ってくれたお方に恩返しがしたい一心で学び、大人に気づかれないように巧みに情報網や資金経路を築いた。


 ルベルに召し上げられてからは、その情報網や情報収集スキルを活かして経路を拡大し、優秀な暗部を作り上げる。また、自分はいつか主のために命を落とすということを前提に、孤児院の子どもたちをメインに据えて後継教育にも力を注いでいた。


 護衛としての体術や護身術も身につけており、主の元に送られた暗殺者を撃退したり、身を挺して主を守ったこと数回。身体能力にも優れていると一目置かれたが、実は一番得意なのは暗殺術。

 細身で大柄ではないが、力はそこそこある。しかしながら屈強な人間に勝てる訳ではなく、もっぱら頭脳戦であったり、人を効率的に遣わす。毒殺や事故偽装もお手の物。

 生まれ育った環境が混沌とした無法地帯であったこともあり、汚いとか狡いなどという言葉は辞書にない。ためらいもない。



【after…】


 王妃(ルベルの妻)から見た真実。

 王妃はルベルの父母が一番国益となる相手を吟味してルベルと結婚させた、大貴族の娘。もとよりルベルへ憧れを抱いていた、つつましやかで聡明な女性であった。

 一族からの後見があり、権力は持っているものの、ルベルの両親である先王と王太后にとって都合の良い相手を選択したため、独占的な立場にはない。

 夫であるルベルの側近が操る暗部は先王や王太后の持つ情報組織を凌駕するまでに発達していたため、王妃の情報網など取るに足りないものであり、もたらされた情報の真偽は怪しい。

 少なくとも、王と侍従がただならぬ仲であるという情報は、探ってみたら偶然知り得たなどということはなく、ファスに流された情報である模様。出方を伺っていた、もしくは実力の差を見せつけ牽制する意図であったのか……

 同じくして、「侍従が亡くなった。病死らしい」という情報も、もたらされたものである。

 真実は不明。



【真実……】


 ▶ファスが暗殺されて、失意のルベルが引退、隠居(王妃視点)

 ▶ファスが死んだことにして、ルベルと一緒に隠居

 ▶実はルベルが暗殺されており、王太子の後見のために生きていることにしてる

 ▶ルベルが病んでたので、ファスが隠居させた

 ▶国内の問題も片付いたのでルベルとファスが引退して自由な余生を過ごした

 ▶そもそもルベルは本当に男だったのか、どこかで二人で孫を抱いてるんじゃないか

 ▶&more…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る