月よりも
「今日は月がすごい明るいね。なんか名月?きれいだね」
隣を歩く相手がはしゃぐから空を見上げた。心持ちいつもより明るい夜道に浮かんだ、大きくて明るい月。
寒さに冴える暗い空にはくっきりと月が映えていて、星も多く浮かんでいる。
なるほど、綺麗な夜空なのかもしれない。
「月はいつまでも綺麗でいられるけど、人はそうじゃないから」
思わず口からこぼれて、ひどくばつが悪くなった。
月と争おうと思うほど自意識過剰なわけじゃない。なのにこんなくだらない事を言ってしまうのは、ただの天邪鬼さだろうか。それとも……嫉妬心なのか。
頭が悪すぎて後悔する。
「でもでもでも、月よりも綺麗で綺麗な上に可愛いの権化なんだから全然勝負にならないしなんならいつまでも綺麗タイトルマッチでも一発K.O.勝ち取っちゃうしオッズにならないくらい」
「うるさい」
なんの迷いもなく帰ってきた言葉にドキドキして、そわそわして、顔を上げられない。
「えええええ、まじ即優勝なのに!てかさ?月っていつも綺麗な訳じゃないでしょ。やる気がない時もあるし見えなかったり変な形だったりさ」
「………」
「だから、比べるまでもなく一瞬が永遠でレジェンドなほど綺麗で可愛くて可愛いの圧倒的優勝!!」
「だからうるさい……馬鹿。好き」
月よりも太陽よりも眩い。
口から出任せたような言葉なのに、一瞬が永遠なのは理解してしまって、胸に納めていられなかった心が、思わず口から零れた。
この一瞬の眩さは、きっと胸の奥に刻まれて、この先もずっと美しく輝き続けるのだろう。
月が綺麗だったという記憶と共に。
「なっなななななんと素直可愛いという一撃必殺!全世界に愛される可愛いの概念!!!しかし全世界にも勝ってみせる可愛い好き大好き!!!!!」
「息吸って。あと夜中ですうるさい」
「騒音はほんとスンマセン」
息を切らせつつ急に小声になった相手へと、何もかも飛び越えて笑いが込み上げた。
一人で見上げた空に何のの感慨も覚えなくても、今日の夜空がこんなにも輝かしいのだから。
これが、月が綺麗だということなのだろう。
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