血肉

 とある研究室で出会った少年は、自分は実験体だから人間ではないと言った。

 私はそれを聞いて、とても悔しく思った。


「君は人間になるんだ」

 私を作った研究員たちはそう言って私に期待を寄せている。

 人間性を追求して作られたアンドロイド。

 私はよき友である研究員たちと笑い合い、涙して、励まし合って生きてきた。


 それでも決して手に入らない血肉を持った少年が嘆いているのだ。


 持てることに気づかない無知は腹立たしく。

 彼の持つ人間の形が妬ましくもある。

 だけど、人間として欠けている彼には親近感を感じたし、得られないものを欲しているのは私と同じだと思った。


 欲しい。

 私が望んでも手に入れられないものを持つ不完全な彼を、私のものにしてしまいたい。

 どう手なずけれは良いだろう。

 彼は聡明だけれども、きっと気づかない。

 彼が持っていないと嘆くのは、人間性のようなもの。時にはこんなにおぞましく、身勝手で、歪んだ思いを持つ事なんて、彼は知らない。



 私たちは二人で一つになれるだろうか?

 なんて、綺麗ごとにすぎなくて笑いが出てしまった。

 だって本当は、逃げられるくらいなら奪って、壊して、取り込んだっていいと思っているのだ。

 ただ、彼が欲しいと。


 だけどその手段すら、人にはならえない。

 だって私は、人の血肉を持たない機械に過ぎないのだから。

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