第37話

 佐山は着替えながら、「自作のAVどうすんの?」と聞いた。

「どうもしないよ。一人で楽しむ」

「そう……栄治が裕太を勃たせた時、驚いた。そのまま二人でやんのかと思った」

「まさか」

 栄治はうなだれた僕を嘲笑い、頭に手を置いた。佐山が「犬を撫でてるみたい」と呆れている。確かに、僕達の触れ合いは対等な人間同士のものではない。

 佐山は首をさすりながら、「じゃあね」と告げて、出ていった。不穏な空間から、さっさと逃げるように。

 栄治は裸のまま、コップに水をくみ、僕に差し出した。

「どうだった? ぜんぜん悪いことじゃなかったでしょ?」

 栄治は裸の僕を抱きしめた。火照った体が冷まされていく。

「もう親のことで、俺達は悩まなくていいんだよ。馬鹿馬鹿しいだろ?」

 僕は自嘲して、「荒療治のつもり?」と聞いた。

「そうかな」

 俺は新たな罪を生んでやった勝利感に酔いしれた。

「どう? またやりたい?」

「……………………」

「今ので、裕太の子どもができたら、どうなるのかな?」

「!」

 一瞬で、僕の心と体は強張った。

「裕太は大人になれるかな?」

「嫌だ!」

 叫ぶ僕に向かって、栄治は冷酷に微笑んだ。

「もしもの話だよ。その子をどうする? 捨てる?」

 僕は首を振った。

「優しいね」

 耳元に囁かれた。

「これからも誘ってあげる……断ったら、さっきの映像を流すから」

 僕は新しい枷をつけられたことに気づいたけど、遅かった。性欲に屈して、『汚いセックス』に耽ったばかりに、親の罪と同じ罪を背負う羽目になった。それは自業自得の罪だった。

「………………」

 頭から、冷たい水が流れてくる。見上げると、栄治がコップをかかげていた。

「マヌケな顔」

 茫然としていると、いきなりビンタされた。バチッと大きな音が鳴って、ヒリヒリ痛んだ。ずっと目を瞑って、恐る恐る開けると、またビンタされた。火傷が再燃するように痛んだ。

「やめて――」

 僕は咄嗟に腕をあげた。栄治はじっと僕を見下ろしている。一瞬、初めて教室で話しかけられた時の光景が蘇った……女子のくせに、学ラン着ている、なんて思ってたっけ。今、僕が見上げている栄治は髪がすっかり短くなっている。おぞましい、理解不能な赤ん坊みたいに突っ立っている。虚無と絶望の混じった真顔。子どもじゃないし、大人じゃないし、その間にさえ……いられないのか。だとしたら、彼も人間になりきれてないんだ。寄生虫の僕みたいに。

「……………………」

 僕は栄治の性器を真ん前から見た。それこそ奇妙な虫のような姿で、力なく垂れている。さっき、栄治は僕の性器をたたせた。でも、僕は彼の性器をたたせるどころか、触れることさえ絶対にできない。手をのばすことさえ……。

 自尊心はすっかり敗北して、死んだように、目を瞑った。


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