第32話

 勉強なんかしたくないのに、俺は学校の夏期講習に参加した。あのアパートの部屋に引きこもっているのも嫌だったから。

 佐山も参加していた。俺と同じく、やる気が無いようで、机に突っ伏している。佐山の男友達が教室に入って、「恵梨香! 来たんだ」と驚いた。佐山は「親が行けってうるさいから」と怠そうに答えている。

 夏期講習が終わった後、俺は「一緒に帰らない?」と、佐山を誘った。佐山は「コイツも一緒なら、いいよ」と男友達を見ながら、答えた。

「大事な話があるから、二人きりで帰りたいんだけど」

 佐山の男友達は気まずそうに、「俺、別のクラスのダチと帰るわ、じゃあ!」と言って、教室から出た。

「空気読む奴だね」

「むしろ、加藤さんはKYだね」

 二人で一緒に学校から出た。

「大事な話って、何?」

「裕太から聞いたんだけど、セフレを探してるんでしょ?」

 佐山は目を丸くしたが、「そうだけど」と澄まして答えた。「俺はどう?」と聞くと、「べつに、いいよ」と、あっさり受け入れた。お互い、まだ十五歳だけど、セックスの契約を大したことないように交わした。

「裕太がセフレになりたいって言ったら、どうする?」

 俺が聞くと、佐山は急に困惑して、「裕太が?」と聞き返した。その表情で、俺は不愉快になった。『信じられない』と語っているから。なんで裕太の性欲を疑うんだろう? アイツが汚れないように、女として守ろうとしているみたいだ。

「裕太とやりたくないの?」

 本当にやりたくないなら、嫌だと即答するはずだ。答えを分かってて聞いた。

「そういうことじゃないけど」

「顔の火傷がキモいから?」

「違うって!」

 怒りはどんどん膨れ上がった。

「裕太のチンコが嫌なの?」

 単刀直入に突っ込んだせいで、佐山に睨まれた。貞淑な女ぶるなよ。俺も睨み返した。

「何が違うの? 俺と裕太で」

「別に、何も」

 佐山の態度は、俺を汚してもいいけど、裕太を汚すのは駄目だと示している。クソうざいな。俺は裕太をドロドロの底なし沼に沈めてやりたいのに。憎たらしい女を利用してでも、アイツの心を殺したいのに。

 俺の憎悪の根っこには母親がいる。アイツにとっては光で、俺にとっては闇だ。だから、母親への怨みを、同じ女を使えば、アイツにぶつけられるはずなんだ。

「三人でやるのは? 俺と裕太と、お前で」

 佐山は嫌そうな顔をしている。

「さすがに、光太が可哀想? 罪悪感ある?」

 首を振った。

「セフレをつくれって言ったの、光太だし」

「嫌だと思わなかった?」

「浮気したのが、バレたせいだし」

「佐山って、セックス好き?」

「……好き」

 佐山はあっけらかんと言い放った。

「アンパンマンポテトと同じくらい」

 流石に面食らって、ちょっと狼狽えた。「どういうこと?」と聞いても、勝ち誇ったように、答えなかった。

「……今から俺の家にいく?」

「うん」

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