第28話
放課後、僕は塾にいくために、昇降口で光太を待った。やがて、光太がきて、憂鬱なまま一緒に歩いた。
「こないだ相談したことだけど、恵梨香に提案したら、いいよって言われた」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、別れずに済んだの?」
「まあそうだね」
セフレという非現実的なことが身近に起きてしまった。僕は「おめでとう」と、心の無い祝福をした。光太は「ありがと」と笑う。
「どんな風に話したの?」
「割と直球で、俺は受験生でいる間はできないけど、別れたくないから、セフレつくれって頼んだ。そしたら、いいよって言われた」
「……体目当てで付き合ってること、話したんだ」
「え? 違うよ」
「は?」
僕は唖然とした。
「だって、光太って、佐山がホントに好きなわけじゃないでしょ」
「どういうこと?」
キョトンとする光太が恐ろしくなった。
「だって、佐山が他の奴とやってもいいんでしょ? ホントに好きなら、嫌じゃ――」
光太は笑って、遮ってきた。
「恵梨香が俺のせいで、我慢してんの可哀想ってことだろ? 裕太って真面目なのか、不真面目なのか、よく分かんねえな」
僕がセフレの提案をした時はドン引きしていたくせに、もう不埒に馴染んでいる。更に、光太は自分を正当化するように語った。
「先に俺とやりたがったのは恵梨香だしな。体目当てじゃないカップルとかいないだろ」
僕は顔を背けて、無意味に景色を眺めた。先日、栄治と一緒に歩いた商店街を、今日は光太と歩いている。あの時、二人で空の一坪に進んだ細い路地裏を通り過ぎた。僕はやさぐれたように「胸ぐらい揉んでやれば?」と提案した。光太は苦笑している……いや、嘲笑っている?
「それは我慢しとくわ」
「なんで? できんの?」
「中学を卒業するまで、手を出さない! でも、卒業したら出す!」
光太が誠実なのか、不誠実なのか混乱してきた。どっちにせよ、性欲を我慢できず、受験勉強に支障をきたして、不合格になってしまえばいいのに。M高の合格枠が一人あく。でも、光太の不幸を願った僕はすぐ自分が嫌になった。誤魔化すように、「何とかなってよかったね」と再び祝福した。
「裕太も高校にいけば、彼女できるよ」
適当な励ましだ。光太が火傷を気にせず、仲良くしてくれてることは分かっているけど、嫌味に感じた。こんな顔で彼女なんかできるわけないだろ。光太と違って、どうせ僕は童貞のまま生きる羽目になるんだろうな、と自嘲した。
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