第21話

 俺は物音で目を覚ました。大紀がガムテープをはがしている。抱き上げられて、ベッドに寝かされた。

 大紀は「ごめん」と謝った。俺は「ねえ」と頼んだ。

「学校には、通わせてよ」

「でも、裕太に――」

「もう関わらないから」

 俺は手首をさすった。夜が明けているらしく、カーテンが日に照らされて、明るく染まっていく。

「今日は学校を休む」

「………………」

「もう出勤するの?」

 大紀は頷いた。家を出る前に「二度とあんなことはしないから」と告げてきた。鍵が閉まった後、俺は静かに目を瞑った。

『……お父さんは、俺より、明理と裕太の方を愛しているんだ』

 本当にそうかは確かめずに、虐待を思い出しながら、答えを得た気分になった。大紀との絆が切れて、悲しいはずなのに、清々しい。もう好きにしたって、いいんだ。

 でも、どうすれば、俺の心は澄むんだろう。大紀が明理を奪って、家族三人の暮らしが始まっても、幸福になれないと信じている。その生活を想像しても、白けて、くだらない。やっぱり、裕太の心を殺さないと満足できないんだ。

 復讐が無意味だとしても、どうでもいい。このまま何もかも半端に続くなら、何もかも破壊した方がマシだ。その犠牲になるのは、裕太でなきゃ面白くない。慰め合うべき哀れな子どもだけど、家族に愛されているのが憎いから。あの嬌声の中、純粋な涙を零したのが気持ち悪かったから。俺は裕太を真っ暗闇に沈めたいんだ。

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