第3話 試練が始まる

「あなたがまだ落ちる前に居た場所でも話しましたが、地獄は何も出来ない自由です。退屈、不自由、暇、孤独、絶望。それを与える場所なのです。ここに居る皆は、声を出せません。音もこの世界にはありません。今あなたが私と話す事ができるのは、私と一緒にいるからです」

確かに赤ん坊は、一度も声も出さなければ泣きもしない。気にもならなかった。感情が奪われているからだ。でもここに来た時に男女がイチャイチャしていた。地獄という認識が無かったせいか、ただそう見えただけだろうか。でもやはり赤ん坊はおかしい。罪というか犯罪なんて何もできないじゃないか。

「この赤ん坊もオレみたいに誤って落ちたのか」

天塚 恵は冷静に答えた。

「いえ。今ずっと抱き抱えてるその男は18年前、当時十八歳の時に両親を殺めその後自殺しました」

全くわからない。この女はオレをからかっているか。

「言ってる意味が解らない。もっと詳しく話してよ。もしかして作り話なんじゃないの。オレを騙そうとしてるならやめてくれよ」

あの世だからって、十八年前の人間が今は赤ん坊だなんて信じられない。彼女は表情を変えずに淡々と話しだした。

「ここ地獄では死んだその日から三百六十五日後に一つ年が若返ります。

若返りを繰り返し成人になり、幼少期になりながら、邪念、邪心を減少させていきます。そして赤ん坊になれば、『無』です。無になる事で魂となり新しい命に生まれ変わります」

本当の様に思えてきたが、納得ができない。若返るだなんて。

「そろそろです。その赤ん坊を下に置いて下さい。今まさに 『無』 です」

言われた通りそっと赤ん坊を置いた。それから一分ほど待っていると赤ん坊は、青い淡い光に包まれながら小さくなりシャボン玉の様に変化した。そしてふわふわと飛んで行ってしまった。不思議な光景を見た誠は、神秘的だと思うと同時に地獄なんだなと改めて感じはじめた。ここがやはり地獄ならば、すぐにでも天国に行かなければ。

「天塚さん、説明ありがとう。じゃぁ天国に行こう。連れ戻しに来てくれたんでしょ」

天塚は良い表情はしてない。 なぜなら簡単に地獄から天国に行く方法があるのなら大変な事になる。悪人も天国へ侵入してしまったら地獄の意味がない。

「端的にお伝えします。天国へ連れて行く事はできません。しかし方法はあります。やりますか?」

なんかこういった一つだけ方法がありますパターンって漫画やドラマでよくあるなぁなんて思いながら、その言葉に誘われた。

「やりますっ!」

当然だ。地獄に好き好んで居たいだなんて思うわけがない。

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