第2話 薄ピンクのワンピースの女

「ウワァ~!  ア~~~~~~~~ ナァ~~………はぁ…叫ぶのも疲れた。堕ち続けるってのが地獄か?」

もう三十分ほど落下しているだろうか。誠は頭から落下の最中に真っ暗な闇の中で腕を組みながら呟いた。

「なんでやネン。 だいたいオレ天国行きだったのに、あいつあんなに強く押して嫌がらなくてもいいのにまったく世の中うまっ、、、、」

突然地面に叩きつけられた。生きていたら間違いなく即死。というか体バラバラになっていただろう。しかし強い衝撃があったものの、痛くもかゆくもない。衝撃にびっくりして少しの間目を閉じていた。暫くして目を開けて立ち上がった。

「あー死ぬかと思った」

そう言いたかっただけだ。辺りを見渡すとそこは落ちる前まで居た場所と変わりのない真っ白な世界だった。ただ違うのは、たくさんの人がいる。地獄には見えないが。天国にも見えない。中年男性が座禅をしていたり、こちらでは男女がイチャイチャしている。子供も歩いている。小学生だろうか? 足元には赤ん坊が居る。

「可愛いな、、、、あ…赤ちゃん?!」

赤ちゃんがいるという事は、やはりここは地獄ではないんだと思った。

「可哀想に。生まれてすぐに…」

誠は赤ん坊を抱き上げ、変な顔をして遊んであげた。

「べろべろばぁ~たかいたか~い」

赤ん坊の顔は嬉しそうにしている様に見えるだけ。生後五、六ヶ月くらいか。それから間もなく、薄ピンクのワンピースの女性が誠の後ろにスゥっと現れた。赤ん坊と遊んでいて女性にはまだ気付いていない。

「あなたは不幸ですね」

その言葉に驚き振り返った。赤ん坊を優しく抱きかかえたまま言った。

「おっ。あんたさっきの。ここは天国か?」

ぶっきらぼうに聞いた。

「いいえ地獄です。あなたは罪もないのに地獄に落とされました。これもまた運命です」

「地獄?」

と言うか運命ですの一言でかたづけないでほしい。誠は納得できない。聞きたい事がたくさんある。

「あんた名前は?」

アゴを女性にクィッと向けて聞いた。

「私の名前は、天塚 恵、あなた達の世界で言う天使の様な存在です」

天使と聞いて、誠はくすりと笑った。『天使』だから『天使(あまつか)』と 思ったのだ。ウケる。気を取り直して幾つか質問をする。

「まず、なぜここは地獄なんだ。地獄になんで赤ん坊までいるんだよ」

まだ誠は地獄ではない場所に居ると思っている。理解が追いつかないからだ。誠のイメージでは針地獄や火の海、そして鬼。舌を抜かれ悲鳴が響き渡っている様な恐ろしいイメージしかない。こんな真っ白な世界でみんな自由にしているのだから、信じる事ができない。天国のイメージでもないのも確かだが。なぜだか天国は地獄ほどの想像、思考などで頭の中で描き出される風景、表現が誠には思い浮かばない。天塚 恵は仕方ない様子で説明を始めた。

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