迷宮本屋での出会い

七霧 孝平

伝説の古代巨大本屋

その本屋はまるで迷路のようだった。


某国にある巨大本屋。


異国、古代の本も多数存在するその謎の本屋は、研究者、学者、マニアも集まる伝説的場所であった。


「広いのは知ってたけど、ここまでとはなあ……」


人一倍、歴史、古代の本が好きなとある青年は、バイトで稼いだお金でその本屋を訪れた。


「本屋っていうより図書館だな……」


感想を口に出しつつ、青年は本を眺めながら奥へ奥へと進んでいく。


「こ。これは〇×国の歴史書!? で、これは古代〇〇語で書かれた文献の複写本!?


で、こっちは――」


青年は次々と本を無我夢中で手に取りながら、さらに奥へ入っていっていることに気づかない。


「う~ん。もっと欲しいけど、予算的にこれが限度かな……。っと?」


青年は辺りを見渡すが他の客は誰一人見えない。


「ここ、どの辺?」


奥の奥に来た青年は、もはや出入口がどこかもわからない位置にいた。


「ここ、案内板とかないの困るな……」


青年は頑張って出入口に向かおうとするが、迷路のように同じ場所を回っていた。


そこへ……。


「どうかされましたか」


澄んだ声が青年の耳に響き渡る。


その声に振り向くと、いつの間にか少女が佇んでいた。


「えっと……」


「わたしですか? この区画の担当の者です」


少女とは思えない大人びた声。きちんとした態度。


それに驚きつつも、青年は出入口への案内を頼む。


「迷い人でしたか。ここまで迷うとはただ者ではありませんね」


「それは褒めてるの?」


「どうでしょう。……あ、その本」


大人びた態度の少女が、初めて年相応の表情を見せる。


「古代〇〇史、お好きなんですか?」


「え? ああ、そうだけど。君、よく知ってるね?」


「私の区画の本ですから。よく読んでいます」


それから出入口に着くまでとても話が弾んだ。


青年は、少女の知識に驚きつつも喜びを感じていた。


少女も普段人が来ない、自分の区画への迷い人の情熱に喜んでいた。


「あ……」


「あ、着いちゃったね」


しかし別れは当然やってくる。


「「……」」


二人は困ったように見つめあった。


「また、来るよ」


「!」


「もう数日この国にはいるんだ。また遊びに来るよ」


「あ、ありがとうございます!」


少女の笑顔に青年はドキッとする。


それから数日。


青年は本屋に通い続けた。


迷路のような本屋だが、少女といると迷わずにうろつくことができた。


いつしか当たり前のように、二人は本屋で恋に落ちた。


そして別れの日。


「今日でお別れだね」


「いえ」


「え?」


「わたしも連れて行ってください」


「ええっ!?」


少女の発言に青年は本屋内で大声が出てしまった。


「いやでも、本屋は?」


「わたし、嘘をついていました。担当なんて嘘です。


わたしはただのここの常連です」


「え……」


青年は今頃気づく。


確かに働いてるにしては、少女は自分と行動をし過ぎていたことに。


「わたしずっとひとりだったんです。


でも貴方はわたしを見つけてくれた。見てくれたんです」


少女の表情、声は、最初に会った大人びたものと違う、幼い声だった。


その声に青年は覚悟を決めた。


「わかった。いいよ」


「ありがとうございます!」


少女が青年に抱き着く。


青年は荷物と少女の重みでバランスを崩すが、踏ん張った。




数年後――


「また、ここに来れるなんてなあ」


「貴方が頑張ってきたからですよ」


その巨大な本屋を一組の夫婦が見上げていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

迷宮本屋での出会い 七霧 孝平 @kouhei-game

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ