本屋で怪しい動きを見かけたら

@chauchau

静かにその時を待つ


 大学生になりバイト先は本屋を選んだ。大学近くの町の小さな本屋さん。人を雇う余裕があるのか聞いても答えてくれないお婆さんが店主さん。

 最近、中学生の客が増えた。彼らは、必ず男女二人一組でやってくる。決まって男の子は無駄にテンションが高く、女の子はキョロキョロと周囲を気にしてばかりいる。人気のない本屋だとわかっていても見られていないか不安な気持ちを隠せていない。

 目立つ男の子よりも、不審な女の子に目がいく。あれは、やるか。やるだろうか。

 意を決して女の子が手を伸ばす。バレないように、見つからないように、そっと、そっと手を伸ばす。

 あれはやる。ああ、あれはやってしまう。男の子は気付いていない。いや、気付いないフリをする。煩く騒げば騒ぐほどに視線は彼に集まるだろう。誰の視線? それは、店員である私の視線。

 気づかれませんように。そう願うことすら今の彼らには楽しいのだろう。公共の場で騒ぐ迷惑すら考えられないほどに。


 私は静かにそのときを待つ。ここで声をかけても意味はない。ただ、そのときを待ち続ける。


 そして。


 入れた。

 女の子が入れたのだ。

 男の子の鞄に、小さな便箋を。


 叫びそうになるのを圧し殺す。おっほい! 入れた! 入れましたよラブレター!!

 キュンキュンするよ、たまんないね! まじごはんが進む光景さ!

 町の小さな本屋さん。ここで誰にも気づかれずにラブレターを渡すことができれば恋が叶うと噂が流れたのは最近の話。誰が流したかは分からない。流した本人が言うんだから間違いない。


 おかけで客足は増えたし、お礼のつもりなのか後日に本を買いに来る子が増えて売り上げも伸びた。

 私はメシウマな光景に心踊る毎日を過ごすことができ、そしてなにより。


「はい、警察呼びまーす」


「出来心なんですっ!!」


「知らん」


 周囲に気を配らないチョロい店員が入ったと噂が広まって、面白いくらいに万引き犯が捕まった。

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