雨宿りで面倒ごと【KAC2023参加作品】

卯月白華

雨と共に厄介事

 どうしてこうなった……

 それが今の正直な感想だ。


 初めて、私は天気の予想を外した。

 今までこの勘が働かなかった事は無かったんだけどなあ。

 お陰で雨対策を何も持たずに出歩いて、見事に降られた。

 良さそうな本屋兼カフェで雨宿りをしようと入ってこの始末。

 今日は全ての運を使い果たしていたのかもしれない。

 ……果てしなく頭痛がする。

「ソウちゃん、何なの! この女も! さっきの女も!!」

 本来なら静謐な雰囲気なのだろう店内で、金切り声を私の目の前であげているのは、ふわふわしていて、可愛いが形になった様な同年代だろう美少女。

 訳が分からない。

 本屋に入った途端、容姿はとても良いのに、真面目にしていれば爽やかイケメンなのに、普段は軽さに取って代わられた残念イケメンと名高い、同級生の射矢いるや蒼馬そうまが空気を切り裂く速さで飛びついてきて、私の後ろに隠れたままなのが余計に。

「射矢さん、何をしてるんですか?」

 もう本当に何が何だか。

 高い身長を丸めて、女子の平均身長より若干低い私の後ろというか、腰を掴んで隠れている、情け無い瞳と表情で全てを台無しにした、それはそれは見事なイケメンへと冷たい視線を向ける。

「蒼馬で良いっていつも言ってるのに。それより助けて、加奈!」

「説明!」

 途端に更に縋る男へ反射的に声を出してから、申し訳なくて周囲を見渡せば、幸いあまり人は居ない。

 とはいえ、可及的速やかに事態を収束しなければ皆さんにご迷惑だ。

 店長らしき人に頭を下げてから、改めて二人に視線を向ける。

「加奈が来てくれてマジ助かった! やっぱり神! 真彩まあやがさ、急に機嫌が悪くなって、なんでか此処に引っ張って――――」

「だから、コイツ誰よ!?」

 苛立って私を指差しているのが、どうやら真彩さんらしいと察した。

「同級生。あ、さっきの子は学校違うけど、ちゃんと加奈は内部進学組だぞ」

 射矢蒼馬が少女に言った言葉で改めて彼女を見てみれば、ちょっと落ち着いたらしいのが見て取れる。

 ……私達が通う学校は、いわゆる良い家の子が通う所だ。

 しかも、中等部より初等部。

 初等部からより幼稚園からの方が家が良い。

 どこから入学出来るかの資格が有るらしいけど。

 お陰で学校内カーストがそれはそれは面倒な学校。

 気にしない子は、上位カーストの更に上層部だけ。

 何せ明確な区別があるので。

 ……それよりも、って何。

 まだ誰か登場するの、もしかして。

「どこから?」

 端的な言葉からも裏付けられるけど、少女の視線はトゲが薄くなりつつ私を観察するものに変わった。

 でも、こんな子居たっけ?

「初等部からだけど、幼稚園からじゃないのは、加奈は病弱で母親の実家に居たのが理由だから、資格持ちだぞ」

 初等部からの同級生が、珍しく真剣な表情で必死に私の説明をする理由が分からず、いつも通り困惑した。

 彼は、初等部の入学式で隣になった時、幼稚園から私が通っていない理由を告げて以来、こうやって私を値踏みする相手に何故かこの説明をする。

 本当に、私はただ本屋で楽しく雨宿りしたかっただけなのに、痴情のもつれは勘弁してよ。

 まだまだ解放されそうにはなかったので、毎度のごとく意を決する。

「兎に角、座って話しましょう」

 それだけ言ってしまうと、急に射矢蒼馬がパアッと光り輝く笑顔になったのを見て、大きな嘆息がもれた。

 ……私の、バカ。

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雨宿りで面倒ごと【KAC2023参加作品】 卯月白華 @syoubu

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