第10話



 それからのアレクサンドラは凄まじかった。王太子妃教育は六歳から開始する予定だったのを、早めるよう国王陛下へ直談判し、四歳にして開始した。私も一緒に王太子教育が始まったが、「クリストファーは冒険家の準備をしなさい。」とアレクサンドラが勝手に私の分の課題まで済ませていることが多かった。最初は拒否していたが、嫌いな王太子教育よりも大好きな冒険に関する勉強の方が身に入り、魔法の訓練ばかりするようになった。


 ここまで良くしてくれるなんて、もしかしてアレクサンドラは自分のことを・・・と思ったこともあったが、本人に尋ねると一蹴された。


「私は筋肉質な体格の良い騎士様がタイプなのです!クリストファー様のような細身は駄目です!それにクリストファー様は性格も騎士様とは正反対ですから!」


 と、騎士について熱く語られた。そんな二人が十二歳の頃、マーガレットが公爵家にやって来た。マーガレットとその母を公爵家に入れるかどうかに関しては、すったもんだがあったようだが、マーガレットの魔力の強さが決め手となり公爵家に入ったそうだ。


 マーガレットは天真爛漫で、王太子であるクリストファーと、王太子妃候補のアレクサンドラに純粋に憧れ、懐いていた。平民から急に公爵令嬢となったことで、マーガレットへの風当たりは強かったが、暴言を吐く相手にはアレクサンドラが片っ端から何十倍もの仕返しをしていたため、すぐ平穏となったようだ。クリストファーの傍には、強烈なタイプ:アレクサンドラ、しかいなかったこともあり、呆気なくマーガレットに堕ちてしまった。それにすぐアレクサンドラも気付いたのだろう、ある日、マーガレットと共に呼ばれこう言われた。


「二人を冒険ギルドに偽名で登録しておいたわ。」


「待ってくれ。なぜそんなことを。」


「クリストファー、貴方は冒険家になりたいのでしょう。マーガレットも魔法を使う仕事はしたいけど、貴族の中にはいたくない。なら二人とも、冒険ギルドが一番合っているのではなくて?」


 マーガレットは、以前のようにのびのびと暮らしたい思いがあった。また、魔法を使う仕事が自分に合っているとも考えていた。クリストファーは、魔法の訓練や勉強をする中で魔石などの素材集めの仕事に魅了されていた。アレクサンドラからは「四歳の頃に、宝探し遊びしていた頃と変わらないじゃない。」と笑われたが、否定されることはなかった。


 私とマーガレットの仕事や課題は、やはりアレクサンドラが全て終わらせていた。その頃アレクサンドラは王太子妃教育は修了していたが、代わりに王太子妃の公務があり、その上で二人分の課題や仕事を行っていた。正直、アレクサンドラの負担が大きすぎるので、自分の事は自分ですると何度も言い争いになった。珍しく引かない私を見て、アレクサンドラは諦めて話してくれた。


「いい?王太子の公務をしていると、多くの騎士様にお会いすることが多いのよ。私は今、将来結婚する騎士様を探しているの!お願いだから王太子の公務をさせてちょうだい。」


 王太子の公務を婚活の場として捉えている人間が、彼女以外存在するだろうか。


 

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