第11話
「そのように幼い頃から、準備してきたというのか・・・。」
表情の乏しいアルバートが呆気に取られているのはレアだと、アレクサンドラはうっとりと見つめた。アレクサンドラは迷った末に、アルバートに全てを打ち明けることにした。後から知られてしまい、嫌われるリスクを恐れたのだ。・・・勿論、裏で汚い手を使ったことは隠しているが。
「アル・・・このような狡いことばかりしてきた私はやっぱりお嫌ですか・・・?最初のお手紙では、表向きの理由、つまり嘘をついていました。だけど昨晩、貴方の上で、お伝えしたのは全て本当の気持ちなのです。」
「・・・っ!サンドラ!」
アルバートはぎょっとした。先程宿屋を出て、今は辺境伯領へと向かう馬車の中だ。二人きりではあるが御者に誤解を与えるような言葉を聞かれかねない・・・だが、よく考えてみれば、御者は昨日二人で同じ部屋に泊まったことも、馬車の中でこれほど密着していることも気付いているはずだ。そうであれば、既に誤解されているということで・・・。
「はぁ~・・・サンドラ、昨晩の言葉を疑ったりしない。嫌になったりもしないから安心しなさい。」
御者の誤解を解くことは諦めて、アルバートは悲しそうに俯くアレクサンドラを優しく撫でた。アレクサンドラの話は信じられないようなことばかりだが、アレクサンドラならやりかねない、と思えた。そして、アレクサンドラは巧妙に隠していたが、嫌々ながら辺境伯の領地経営をしているアルバートには、アレクサンドラが裏で様々なことに手を回し、表沙汰には出来ないであろうことをしていたことにも気付いていた。確かに恐ろしいと思わないとは言えない。だが。
「アル・・・。」
アルバートの傷だらけの大きな手で撫でられ、幸せそうに微笑むアレクサンドラをアルバートは既に愛しく思い始めていた。
「・・・?どうしたのです?」
思わず笑みが溢れていたのを、アレクサンドラが不思議そうに尋ねた。
「いや、私の婚約者殿は、長い年月をかけてあんなに大それたことを遣って退けたというのに、私の前では随分と可愛らしいから。」
アルバートは、アレクサンドラの美しい髪の一房を手に取り、口付けた。顔を林檎のように真っ赤にさせたアレクサンドラが、ぽかぽかとアルバートの胸を小さく叩くのすら、愛らしくて仕方なかった。
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