旧友との別れ
1日のプログラムが全て終わり、僕らはいそいそと片付けをしていた。
終わってみればあっという間だった。伊豆奈のあのパティシエ姿はずっと目に焼き付けよう。きっと恥ずかしがって着ないだろうから。
そんなことを考えていると、不意に後ろから声が聞こえた。
「…侑斗、ちょっといいかな?」
「君は…誰だっけ」
振り返ると、そこには身に覚えのない女生徒がいた。ショートヘアをしていて、髪は少し茶色がかった色の彼女は、僕が聞き返すと僕の服の袖を摘み
「いいから来て」
と言って引っ張ってきた。
「ちょ、ちょっと?」
「…………」
僕の戸惑う声も構わんと言った感じで、彼女に連れ去られてしまった。
「…で?こんな
「…これ、渡したかっただけ」
「え?」
受け取ると、それは赤い鮮やかな花だった。
恐らくだが、僕らと同じ店で買ったものだろう
「…僕、別に今日誕生日って訳でもないんだけど」
「…そ、それじゃ!」
「えちょっと!」
静止を聞かず、彼女は走り去ってしまった。
ふと、その花の奥にきらめく何かがあるのに気づいた。
なんだろうと思い手を伸ばす。花の花弁がふわりと触れる。それに構わず中を
「これは…?」
どうやら中に写真が入っているようで。落としたのかとも思ったがそれにしてはわざとらしすぎる。これも、渡したいものなのだろうか。
そのペンダントを、開いてみる。中には元気そうな幼少の男女の写真があった。
それを見て、僕はハッとした。僕は、忘れていたことを思い出した。
彼女は
しかし、僕は気が付かなかったというのに、なぜ彼女は気がついたのだろう…。
彼女が変わりすぎて気が付かなかったのと同じように。僕もまた、変わりすぎているはずだ。にもかかわらず…。
そこで、察した。
僕は花に目線を落とし、つぶやいた。
「…あれも、危険分子だったかぁ」
少し残念だが、仕方ない。危険分子を取り除くのは人ならでは。僕はあくまで、人として当たり前のことをするだけなのだから。
「…うぅ」
ひんやりした感覚が手首と足首に伝わる。ここはどこだろうか、確か私は、家で寝ていたはず。それなのに、どうして…。
「おはよう蓮。気分はどう?」
「…え?」
首を声の方向に向けると、そこには侑斗がいた。
どうして?もしかして、私のことを思い出したのか?いやでも…。
もしかしてあの女は実は親戚とかの類で。実は私との約束を覚えているっていうラブコメみたいなことがあったりするのだろうか。
「あ、あの!私…!」
体を動かそうと体に力を入れる。すると、すぐに手足の自由が効かないことに気がついた。
「え?なにこれ…」
「手錠だよ。逃げないようにね」
手錠?手錠…手錠!?
思わず心のうちで3回復唱してしまう。なぜ?どうして手錠なんだ?いやそもそもなんで手錠を持ってるんだ!?
「えっと、その…あの、もしかしてそういう趣味…?」
「?」
私のその問いに、侑斗は?マークで返してきた。
「えっとそのあの恋人同士じゃないのにそれはっていうか手錠ってどんな性癖してるの!あの今すぐ解いて話なら」
「恋人?僕には、伊豆奈っていう可愛い可愛い彼女がいるけど?」
「え…」
やっぱり、あのこが…。
一瞬脳裏に貼り付いた微かな希望が打ち砕かれる音が聞こえた。そしてそれと同時に、不信感を覚えた。
「…じゃあ、なんで?なんでこんなこと…」
もしや、ワンナイトの掃き溜めにされるのだろうか。
「そりゃ、君を消すために」
その端的に放った一言は、私の背筋を凍らせるには十分だった。
その言葉はいとも簡単に。当たり前だと言わんばかりの声色で放たれた。
「え?け、消す?消すって…いったい、どういう…」
「いや、消すは消すだよ。抹消の方のね」
そういえば彼は、私に見えないところで何かをかちゃかちゃと整備していた。
それが終わったのか、彼はその正体を見せた。
台に置かれた、様々な器具。血が、少しついている、器具。
それが、拷問器具だと思うのには、時間はかからなかった。
「血?それ、血がついてるけど…嘘、でしょ?」
「嘘?嘘って何?僕、君になんか言ったかな?」
あたかもそれが当然だと言わんばかりに。彼はあっけらかんと言った。
「だ、だって…抹消なんて、そんな…わ、私の何がいけなかったの!?」
「いけない…いけないか…まあ、僕らの仲を裂きそうになりそうなのがいけないかな」
「仲を裂くって…そんなこと…!」
「じゃあなんで君は『片思い』なんて花言葉を僕に手渡したの?」
その一言に目を見張る。
確かに、あの花屋はそこそこ話題だった。色々な花言葉がそろっているというので、最後のほうは行列ができるほどの人気ぶりだった。
まさか、彼らが__侑斗たちが行っているとは考えていなかった。
「そ、それは…ばれないと思って…」
「…ま、僕が伊豆奈を想う男がいるのが嫌なように、きっと伊豆奈も彼氏を想う女がいるのは嫌だろうしね」
そういいながら金属が高速回転するような音を立てながら、一つの器具に電源を付けた。
「…ねぇ、なんで、そんなものに電源入れて近付いてくるの?」
「大丈夫。痛いけど、耐えたら楽になれるから」
私は、体中を震えで囲まれもはや言葉さえも繋げなくなった。
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