正気と狂気
「そ~れっ!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
人のものとは思えない絶叫が反響し、鼓膜を甲高く震わす。
1時間色々と切り落としたりしてみたけれど、まだ正気こそないけれど、意識がある。タフだなぁ、なんて思いながら、最後の指にペンチを当てる。
「あ…あうあうああう……」
情けのない言葉を漏らしながらペンチを見る。先ほどまでと同じ、パチンという音が鳴れば最後の一本も跳ねられる。
「あいあううういあう…」
「…99—32は?」
「…え?」
喉に手を当て、力を込めて絞める。
「ア‶ッ!」
「99—32は?」
「……六十…七…」
「そのままカウントダウンして」
66、65、64、63とカウントダウンを進めるたびに、彼女は正気を取り戻してくる。
段々理性的になり、理性的になる程に絶望の顔に染まっていく。
43、42、41、40と数えさせる。ちらっと手を見た彼女は、最後の一本に当てられたペンチを見て、さらに顔から血の気を遠ざけた。
20、19、18、17と。その時は刻々と近付いてきた。ここまで粘ると、彼女はわかったらしい。徐々にカウントダウンのスピードが落ちるのを、また首を絞めて阻止した。
4、3、2、1、0。
「はい。お疲れ様」
パチンッ!
音を立て、もう一本が切り落とされた。断面図からは血が溢れんばかりに血が流れ、その様子を観察してみる。
阿鼻叫喚を発する幼馴染を気にせず、僕はそれを見る。真っ赤に染まった骨が時折白く見える。やがて血が流れなくなり、薄く血に濡れた骨を見る。ペンチで一気にいったからか、断面図は綺麗に切られていた。
「…ふう。さて、これで僕らを邪魔したらどうなるか、わかったよね?」
「…………………な…………………んで……………………………………………………………こ……………んあ……」
指先に引っ掛けた程度の正気でそう聞く。
そういえば、確かいつかどうしてこんな拷問紛いのものをするのかと聞かれたことがある。
…いや、決まってるだろ。
「そんなの、僕がどれほどの苦痛を味わったかを体験してもらうためだよ。当たり前でしょ?」
「……………くる……………………てぇ………………………………」
僕はそんなふうに漏らす彼女の心臓に包丁を突き立てた。
貫いた刃は確実に心臓を貫き、血が静かに垂れる中、その動きを止めた。
ふっと意識を切ったような項垂れ方をして、息絶えた彼女の拘束を解く。とたん、前のめりに倒れこんだ彼女を見て少し驚いてしまった。
ぴくぴくと痙攣しているそれも気にせず、僕は電話をして、いつものように彼らに運んでもらった。
僕はやさしい人間だ。だから僕は彼女が間違えて入れたペンダントを首に付けてあげた。銀色に光るペンダントには、かつての思い出なんて微塵も残っていなかった。
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