子供のようないたずら
次の日。朝起きると、いつもいるはずの伊豆奈が今日は来ていなかった。
「どうしたんだろう…体調崩したのか?」
そう思い、僕は電話をかけてみる。この時間は起きていないと伊豆奈の家から学校に行くのに遅刻してしまう。しかし、呼び出しの音が聞こえないといったように応答がなかった。
いつも体調が悪ければむしろ伊豆奈の方から電話をかけてくるのに、どうしたのだろうか…。
そんな心配していても仕方がないので、僕は朝ごはんを食べ、学校にむかった。
「う〜ん…大丈夫なのだろうか…」
一応、伊豆奈の家により、呼び鈴を鳴らしたが、誰もいないらしく応答がなかった。
「おかしいな…まあ、学校行ってるならいいんだけど…」
何か、僕は大きな不安を抱えながら学校へと向かった。
「おいおいおいおい!おま、あれ本当か!?」
「わっ!あ、あれって?」
学校に到着し、荷ほどきしていると拓哉がものすごい剣幕と勢いで僕のもとにやってきた。
「お前、翠さんに手をかけようとしてたって、全校で話題になってるぞ!!!」
……は?
状況が整理できない僕は、言葉を失った。
大きな誤解だ。昨日はあいつに言い寄られ、それを僕がきっぱりと断ったのだ。
「それはちが…」
「は?違くないでしょ?」
弁明しようと口を開くと、クラスのギャルっぽい奴らが割って入ってきた。
「あんた、昨日翠のことファミレスに連れて行って、しつこく言い寄ってたじゃない」
「そうそう。挙げ句、お金まで出して」
「ほんとサイテー。これだから陰キャは…」
そう言うと、周りの餓鬼共が音叉のように呼応して一斉に罵声を飛ばした。
これじゃ、サルと大差ないな。
「お、おいお前ら!こいつは誰よりも…」
「侑斗くん」
ふと、後ろから声がした。愛おしくて、愛でたいその声は怒気を含んでいた。
「伊豆奈?」
「ちょっと、話したいことがあるの」
そう言いながら腕を引っ張られた。教室をちらっと見ると、最初に突っかかってきた女子が悪どい笑みを浮かべていた。
なるほど、これがあいつらの作戦ってことか…。
「伊豆奈、まずは話を…」
「私、その程度だった?」
僕の話を遮るように、質問を投げかけてきた。
「その程度…?僕は、伊豆奈以外に好意を持ったことはないよ」
「…じゃあ、あの噂はなに?それに、この写真も!」
そう言って突き出したのは、僕があたかも翠とやらに留まるようにしているように見える写真だった。
「あ〜、これ、僕が帰ろうとして、まだ話があるって言われたときのやつだよ。なんかその後付き合うのも面倒くさくて、このまま帰ったんだ」
「でも…でもぉ!」
そこまでいって、伊豆奈は膝柄崩れ落ちて泣き出してしまった。
「えちょっ!泣かないでよ…」
「いい!慰めなくっても…うぅ…」
伊豆奈は耐えきれないように泣き出してしまった。
「……あのさ、僕、そんなに浮気しそう?」
「しなさそうだの!だから、ショックなの…」
「だったらさ、大好きな伊豆奈しか見えてないっていうの、信じてほしい」
そう言いながら頭を撫でる。
「だって…だってぇ…」
「多分、あれは僕らを面白く思わない奴らのイタズラだって。説明すれば、不透明な真実がわかるはずだから。とりあえずは、僕を信じてほしいかな?」
そう言って抱きしめると、ようやく伊豆奈は抱きしめてくれた。
背中をサスサスとさすってあげていると、伊豆奈が今度は安心したような声色で
「よかったぁ…よかったよ……」
と言って泣いてくれた。
あと少し。あと少し。と思っていると
キーンコーンカーンコーン
学校に、チャイムの音が鳴り響いた。
「…これって予鈴?」
「ううん。本鈴。今まさに、授業が始まったよ」
僕らはその後、大慌てで自分の教室へ走っていった。
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