文化祭
文化祭
始業式が終わり、少し学校が落ち着き出した頃。僕ら3年を始めとした全校生徒は少しソワソワとしていた。
理由は簡単。今日から、学校は文化祭の準備へと取り掛かるようになるからだ。毎年、この学校はそれなりに自由な文化祭が開催されており、屋台やクラスの出し物を始めとし、応募者によるパフォーマンスや生徒会考案のイベント。さらには有志によって毎年開催される青年の主張などといった具合にやりたいことをやっているような感じだ。
「さ、というわけで。このクラスの出し物はどうする?」
そしてそれは、僕ら受験生である3年の羽休めの期間でもあり、僕のクラスも大いに盛り上がっていた。
「はいはい!っぱ定番のお化け屋敷!」
「定番で言ったら、料理を出したりするものもじゃないかな?」
「変わり種で陶芸教室!」
前者2人はいいとして、後者のそれは果たして人が来るのだろうか。
とまあそんな感じで、やりたいことを書き並べていった結果、あまりにも量が多いため、最初は5つぐらいに絞るとのことで、投票を行った。
結果残ったのは居酒屋、たこ焼き屋、陶芸教室の3つだった。どうして。
最終的に、僕らのクラスは居酒屋となった。メニューの案も出し合ったりなどしていたが、僕はひたすらに、伊豆奈のクラスがどうなるかのみを考えていた。
「侑斗くん、お待たせ!」
「うん。どうしたの?」
「実はね、クラスの出し物についてどうするかが長くなっちゃって」
そう言いながら伊豆奈は大きく息を吸う。
ここまで走ってきたらしく、大きく息を切らしていた。
「急いで来てくれたの?」
「うん。早く会いたかったから…」
顔を赤らめていう伊豆奈。
「そっか。僕も早く会いたかったよ」
といい、僕は伊豆奈の頭に手を置いた。
ぼっと赤くなってから、帰路を向き、
「かっ、帰ろ!」
「はは。うん、わかった」
本当、俺の彼女は可愛い。
「……だからさ、まあその、あれだよ。君等みたいなのがうちの文化祭に来てもらっちゃ困るわけ」
………………………。
「だからさ、不安の芽はちゃんと取り除かないといけないし」
………………………………………………。
「わかるでしょ?ねぇ」
………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「……ま、もう言っても聞こえないよね。さ、運んでおいて。僕は早く家に帰って眺めないといけないからさ」
何かを発していたのが過去形になったそれらを運ぶように言って、僕は早々に家へと帰った。
これも全部、君等みたいな下等に伊豆奈を盗られないためなんだ。仕方がないよね。
クラスの出し物が決まり、早速本日から準備に取り掛かることになった。3班に分かれ、料理の試作班、装飾の作成班、装飾の飾り付け班に分かれた。僕は自ら力仕事である飾り付けの班に志望し、今は作成班を少しだけ手伝っている。
「この富士山の麓は黒でいいんだね?」
「うん、ありがと」
言われた通りに富士の絵の麓を黒で塗りつぶしていく。山頂が真っ白の富士山と相反する色合いがうまく引き立たせていた。
「こんな構図考えれるって、すごいんだね」
「え?そ、そうかなぁ…ネットで調べたやつのトレスなんだけどねぇ…えへへ」
隣の班長である美術部がそう笑っていたらしい。僕はというと、話すだけ話して伊豆奈のことだけを考えていた。
富士の絵の色付けも終わり、僕はその絵を外でドライヤーという乾燥ガチ勢のようなことをしていた。
「あれ?侑斗くん!何してるの?」
「ん?ああ、伊豆奈」
後ろから体操服のジャージを着た伊豆奈がトテトテと小走りでやってきていた。
「装飾に使う富士の絵を乾かしてるんだよ」
「へぇ〜…すごいね、この絵。すっごく綺麗」
「うん。僕もそう思う。僕のクラスの美術部の子が描いたんだ」
「この絵、すっごく練習したんだろうね」
ふと、伊豆奈の腕に抱えられているものを見て、僕も質問をする。
「伊豆奈は?その板は何に使うの?」
「これ?これね、文化祭でやるスイーツ店のお菓子を並べる棚にしようってなって。それで、試しに組み立てるために持って行くの」
「へえ。手伝おっか?」
そう聞くと、伊豆奈はフルフルと首を振って
「大丈夫。侑斗くんは侑斗くんのクラスのことに専念して。帰りにその分甘えるからね!」
そう言って伊豆奈は自分の教室に帰っていった。
帰りにその分、か…。
「…僕もちょっと、頑張っちゃおっかな」
ドライヤーの電源を切り、僕はもうひと頑張りをしようと思った。
「じゃあ、今日はここまで!明日もおんなじような感じでね!」
クラスの中心がそう言って、その日の準備は終了となった。
僕も荷物を片し、伊豆奈のことを待とうと校門まで向かおうとした。
いきなり、後ろから
「ゆ、侑斗くん!あの、その…い、いい一緒に帰らない?」
と、僕を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、そこにいたのはさっきの作成班の班長だった。
「えっと…ごめん、僕先客がいるからさ」
「そ、そっか…あのさ!明日、明日は、いい?」
迷ったけど、ここで邪険に扱うのも良くない。仕方なしに僕は「いいよ」と返答しておいた。
「ごめん、ちょっと遅れた」
「ううん。大丈夫だよ」
「明日さ、班長に一緒に帰ろって言われて、付き合いを悪くするのもあれだから、ごめんだけど明日は1人でも大丈夫?」
「うん、もちろん!」
「よかった。あ、言っとくけど、伊豆奈のことが1番好きだから、勘違いはしないでね。多分、制作に関する打ち合わせだと思うから」
は〜いと言いながら、伊豆奈はとても嬉しそうな顔をしていた。
帰り道での会話もほとんどが文化祭についてだった。今自分のクラスの進捗はどうかとか、どのクラスが1番楽しみなのかとか。そんな会話を交わしながら僕らは帰路を辿っていった。
いつもと同じ一生の記憶。文化祭のおかげとでもいうのだろうか、その記憶が少し強めに残っていた。
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