カウンター

「温水プールがいいんですか?」


伊豆奈の演説はそこから始まった。

ざわつく生徒。まさか、もっとすごいものを作るのではと、期待が高まっていく。そして高まれば高まるほど、先ほどまでの熱は伊豆奈の演説へと向かっていく。


「確かに、年中入れるプール、というものは魅力的でしょう。しかし、果たしてそれが1番の娯楽ですか?現に、アンケートをとった集計結果をもとに話をしましょう」


そういうと、伊豆奈はとあるグラフを取り出した。


「こちらは、この学校の生徒200人を対象に行った『温水プールの設置についてのアンケート』の集計結果です。右は、必要か必要でないかの二択の解答結果で、赤が必要。青が不必要という意見です」


ぱっと見は互角に見えるが、違う。目がいい僕は、その内容が全て見えた。


「一見、互角に見えますが、左の理由についてを見ると、その差は歴然です。必要派の理由として最も多かったのは『非日常ができるから』『年中プールを楽しめるから』といった理由。対して不必要はの意見として『泳げない』『水に濡れると面倒臭い』など、比較すれば一目瞭然です。プールがあれば楽しめる。しかし、同時に面倒臭い、という意見もあるのです」


あたりが一気にざわつき出す。

当然だ。あちらは財力側の証拠を提示したのに対し、こちらは不要か否かという証拠を提示しているから、説得力が違う。


「だったらあんたは何を作ってくれるんだ!!!」


後ろの方からそんなヤジが飛ぶ。


「はい。この学校の校舎には、もう使用されていない広々とした空き教室がひとつあります。また、武道場には卓球台が1つ余っているとの報告があります。そこで、その空き教室を『娯楽スペース』として設け、卓球を初めに読書、雑談、さらには飲食も充実させる計画を組み立てております」


先ほどヤジを飛ばしたやつは、今やすっかりスピーチに聞き惚れていた。


「ですが、こちらを実現するためには皆様のご協力が必要です。ですので、後期生徒会会長も、この浜宮伊豆奈をよろしくお願いします」


そこで演説は終了。直後、大歓喜の渦の拍手喝采が鳴った。

先の候補はプールというロマンを提示し、生徒全員を盲目にさせたが、冷静に考えればそんなものが自分等の代だけで完成するわけもない。対して伊豆奈の案は実行に移しやすく、それでいて休憩場を設けられるといういわば『確実性』の観点から支持を得た。先の候補の出してくれた空気感も、うまい具合に巻き込んでいたし。全く、僕の彼女はつくづくすごい。

一瞬、こちらをチラッと見る。全員が前しか見えていない中、僕だけが伊豆奈を見ていたからか、伊豆奈はその小さな手で小さくVサインを作っていた。

だから僕も、グッドサインを送り返した。


そして1週間後。無事後期の生徒会長も伊豆奈に。あの男の支持も多く、彼は副会長になったのだった。

しかし、危なかった。まさか一票差だったとは。僕が万が一を考慮しなかったらどうなっていたことか…。

まあ、防げたのでよしとしよう。

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